十八話「ハカリゴト」



「吞乃様が新入りだなんて珍しい、何か事情が?」



顔こそ見えないものの、その声からは興味と興奮がありありと伝わってくる。



「まあ、ただの気まぐれさね。大した理由も無いね、別にその場で殺しても良かったさ。」



吞乃はクツクツと笑ってそう言った。また返すように皇も笑って



「何かしらの引っ掛かりがあったから気まぐれたのでしょう?あまりはた目から見てよろしくない行動は止めた方が良いですよ。」


「おっとそうだった。アンタは油断ならない都の奴らをまとめる此処の一番上だったな。そっちこそ碌でもない手を考えてるんだろう?私等はそれでも良いが立場を鑑みた行動をお勧めするよ。」


「良いんですか?困るのはあなた達ですよ?」


(あっ、コレただの談笑じゃないじゃん?!どっちも腹探ってない?!)



会話の真意に気付き、どうにも落ち着かない薬師への助け舟かのようには戸が開いた。



「話は聞いてましたよ。全く、もう少し穏便に方針の決定をすることは出来ないんですか?」


「ああ、タチガミ様。どうもお越しくださいました。タチガミ様が仰るほど対して過激な会話はしていなかったはずですが?」



吞乃もその言葉に同意することを示すために頷く。



「だったらもう少し言葉遣いを考えて下さい。先の会話ではまるで腹の探り合いです。」


(えっ、違うの?噓だろ?)


「ほら見て下さい、薬師さんが『えっ、違うの?嘘でしょ?』みたいな顔してるじゃないですか。」


「本当だ。凄い腑抜けた顔になってるねえ。」


「まあそんな彼の顔なんて事はどうでもいいんですよ。」


(どうでもよくない!)


「別にお二方だけで会話してもらってるときは先ほどのような言葉遣いでもよいですが、それを聞く方やその話に交わる方の事も考えておいてください。まあ、私が先ほどの内容を簡単にまとめておきますのでそちらで話して結果だけ教えてください。」


「分かったよ。」


「分かりました、タチガミ様。」




――数分後彼女らの話はまとまったようだ。



「あんた等。こっちの策略について話す、聞いてくれ。まずは皇からだ。」



吞乃の言葉で二柱は皇の方へ体を向ける。



「まず私が狐を殺した者を呼び立て、戦功を讃えての宴会を開きそこで強大な妖の血肉を食らうという話を彼の者に聞こえるよう流します。彼の者は妖に対して強い憎悪を抱いているため恐らく手元にある玉藻前のそれを食らうでしょう。そして妖になったことを口実に吞乃様方に処理をして頂く。そういう策略です。」


「待ってくれ、いくら恨みを抱いているとは言えそう簡単に人の道を外れるのか?」


「薬師童子様、貴方も元は人の子だと吞乃様から伺いました。ならばご存じでしょう?人の愚かを。始めこそ道理に従うもののいずれ求めるものが肥大化し手を付けられなくなり道を外れるその愚かを。武士という者たちは武芸に力を見出し、武芸を磨くが為に肩などの形は武芸をせぬもののそれとは形を変えております、武士とはそういう者です。まず間違いなく狐の骸を食らうでしょう。」


「一応喰らわなかった場合も考えてある、酒を飲ませ続けまともに物事を考えられなくなったところを殺す。単純な話さね。」


「じゃあ何でその作戦が予備なんだ?」


「単純な話、大義がこちらにないからでしょうね。前者の謀ではあくまでも人の道を外れたのは彼の者の判断ですからね。」


「その通りですタチガミ様。いくら政に汚い手が必要と言っても無理にそれを取る必要は無いのです。」


「言ってもだまし討ちだから別に汚い手ではあるがね。」


「やはり吞乃様も此処の者たちに負けず劣らずの皮肉屋ですよ。」



そう言って吞乃と皇は笑った。



(…本当にこの帝は子供か?俺らの時代のガキとは桁が違うぞ。まあ、それにしても中々ヘビィな作戦が立てられたな…)



「それと、奴の襲来に備えてその武士の相手は私と薬師だけでする。時間は稼いでくれよタチガミ。」


「了解しました。」



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