第20話 夜 うるわしの少女 麗しの少女1
麗しの少女1
古ぼけた大きな家。屋敷と言えるほど大きくはないし門も無いが、仮に四人暮らしをしているとするには大きい家だ。二世帯とかで暮らしているのだろうか。いや、うなずける話だ。一世帯で住むには寂しすぎる。それほどにこの場所は村から離れている、と思う、し、森の中で孤立している印象がある。敷地の端には古ぼけた小屋も見える。こちらは人が住むには広さといい外観といいお粗末過ぎる。というのも、大きな穴が二、三ケ所開いていたからだ。鳥でも飼っているのだろうか。比較的縦長の小屋だ。
「あの小屋は」
家に入る前にそれとなく聞いてみた。道中で、だいぶ打ち解けたというのもあり、気楽に聞ける。
「あ、鷲を飼ってるんです。その鷲を育てて、街で売るんです」
そう言いながら、家へと入る。
「お邪魔します」
なるほど、そういう仕事もしているのか。と、感心する。そういえば、家族は何をやっているのだろう。
「そういえば、誰がいるんだい」
「うん。おばあちゃんだよ」
少女はあっさりと応える。が、情報が足りない。生計の立て方だったり、どんな家族構成でどんな暮らしをしているのかだったり、色々な説明がつかない。まさか、おばあちゃんだけというわけではなかろう。
「おばあちゃんしか今はいないということかな」
「んっ。おばあちゃんしかいないよ」
ドキッとする。
「えっ、おばあちゃんと二人暮らし」
確認してみる。
「うん。そうだよ」
あっけらかんと少女は応える。変な汗が出てくる。少し、立ち止まってしまった。やはり、この少女は謎が多い。もういっそのこと、存在そのものが理解出来ないと言っても過言じゃない。おばあちゃん推定最低60歳と、十四、五にも満たない少女の二人暮らし。しかもこんなにも孤立した森の中でだ。よっぽどの事情があるに違いない。が、それだけに聞き辛い。たとえ、少しばかし打ち解けているとは言ってもだ。
「こっちだよ」
いつの間にかいなくなっていた少女が、通路脇の空間、部屋から顔を出し、声をかけてくる。招かれるまま中へ入ると、だいぶ広い部屋が姿を現す。だいぶ古風な作りのリビングだ。というか豪華だ。印象として。内装はしっかりしているというか、手入れが行き届いているというか、豪華というか。とにもかくにも凄いと感じさせる造りだった。外観の古ぼけた感じとはだいぶ違う。この部屋も、暖炉があり、彩色豊かな絨毯があり、鹿の頭があり、屋敷の絵や風景画があり、揺れる長椅子がある。そして、その長椅子におばあちゃんがいた。
「失礼します」
「ありがとう」
とりあえず挨拶をと思ったが、間髪入れずにお礼を言われる。この少女にしてこのおばあちゃんか、訳が分からない。おばあちゃんは暖炉をじっと見つめたままで、こちらに振りかえろうとはしない。
「あっ、はいえっと」
「この子を連れて来てくれたんでしょ」
何もかもわかっていると言わんばかりにそう言ってくる。しわがれた、ゆったりとした声だった・
「ゆっくり休んでください。お風呂は沸いていますので」
「……はい」
半ば一方的に話が終わる。あまり会話が好きではないのだろうか。まあ、とりあえず私としては一宿出来ること、風呂に入ることが叶ったわけで、不満があるわけではない。
「お風呂こっちだよ」
少女が部屋の入り口で呼びかけてくる。改めて、明るいところで遠目から少女を見ると、小柄ながらに意外と成熟しているというか何というか、ダイビングスーツを未だに着ているというのもあって輪郭がはっきりしているというか何というか。うん、身長は百五十センチちょっとだろうか。
「十七になる子です。仲良くしてやってください」
ドキドキッと心臓が跳びはねる。唐突におばあちゃんが話しかけてきたから、というのもあるが、この少女が十七歳だと。私と五つも変わらないじゃないか。というか、あのどこかたどたどしいしゃべり方で。しかも、そこにつけてあの性格というか、性質というか、ビビり具合で。泣いていたぞだって。いや、まあ、こんな人里離れた空間で育ったのならば多少そういう面があるのもわかるか。それに「この」おばあちゃんと二人暮らしなら、幾分か説得力もある。が、その、いや、なんというか。
「お兄ちゃん、早く」
いつまでも立ち止まっている私を、改めて呼びに来る。柱からひょっこり顔を出して、不思議そうな顔して。私は少し少女の視線から目を逸らす。
「ああ、ごめん」
そう言って、どこともなしに視線を泳がせながら少女に付いていった。
風呂場もやはり豪華だった。全般的に檜造りで檜の香りが心地良い。床も檜だということもあり、入った瞬間にタイルのような冷たさは感じない。まあ、厳密には豪華ではないか、綺麗に整っているというのが正しいのだろう。節々の角は丸く削られており、転んでぶつかっても大怪我はしなさそうだ。二人暮らしと言っていたが、それ以外の誰かが干渉している、支えているような印象がある。
ザバーン
勢いよく、湯船に身体を浸ける。待ちきれなかったのだ。今日一日の疲労を湯船で解したい。ふぅ~、と疲れが声になって出てきた。幾ばくか眠くなる。だいぶ歩き回った。正直、足が棒である。もう一歩も動きたくない。既に筋肉痛になっているのがよくわかる。もう一度ふぅ~と息を吐く。
「わたしも入るね」
「んっ、ああちょっと待ってね。すぐ上がるようにするから」
そうだそうだ、風呂に浸かりたいのは私だけではない。少女とて、濡れたダイビングスーツでずっと歩いていたのだ。放っておけば、風邪を引いてしまう。
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