第6話 朝 予告された死 六日目1
六日目1
夜は暗い、どこまでも暗い。輝く星々も、照らす月も、その暗さの中では淡くきらめく蜃気楼のようなものだ。
闇。
明るさを無くした世界はその言葉で示すのが最も効果的なのだろう。それでも夜には蜃気楼がある。隔絶された世界ではなく、そこには外へ続くだろう蜃気楼の道しるべが。闇を彷徨う身体は、自然と外へと足を向けるのだ。ゆらゆらとゆらゆらと。それが本当に続くものなのか、果たしてただの蜃気楼か。歩く意味も定まらぬまま、ゆらゆらとゆらゆらと。ただ、はっきりとあるのは光に照らされたい、光に守られたい、開かれた世界で背伸びしたい、たくさんのものと一緒に過ごしたい。それだけだ。
光の中にいるときには、あまりにも当たり前過ぎてそこには有難味がない。暗い中では寝て過ごせばいいだけだ。眠っていれば暖かいものだけに包まれていられる。そんな風に過ごしている。それでも眠れない夜が来ると、そんな生活を後悔し、やり直したいと思うのだ。もう一度光の中で生きることで。
これほどに朝日を待ち望んだ日はいつ振りだろうか。一発逆転、起死回生、待てば海路の日和あり。そんな言葉がふさわしい昨日の興奮が、覚め止まぬ脳を叩き起こした。結果、いつもよりも早くに目が覚める。まあ、落ち着いて整理しようじゃないか。
言うまでも無く、昨日は青年と共にボランティアに向かった。特に変わりも無く一昨日と同じように作業をしていた。青年も一昨日よりはしゃべる意思を示しており、保護者としては微笑ましい限りだった。
さて、実は一昨日私自身も話すような人がおらず、困っているときに話しかけてきた女性がいた。ここ二日でだいぶ仲良くなり、身の上話をそれとなくしていた。と言っても、一昨日はこちらの身の上を話すばかりで、女性のことはあまり聞けなかった。そういうのもあって、昨日は気になっていた女性の身の上について聞いてみた。と、まあこれによって歯車が動き出した。
女性は先日プロジェクトを持ちかけた会社の社長令嬢だったのだ。というか、あまりそこまで気にかけていなかったのだが、そもそもこのボランティアそのものがその会社の運営によるものらしい。発案は女性のものだそうだ。
「どうしたんですか。ふふふっ。変な顔」
「本当なんですか」
「えっ、本当ですけど」
「いえ、実は昨日お話したプロジェクトは、お宅の会社と共同で進めようとしていたもので……」
「えっ……、なるほど。そうだったんですか。うちの父は礼節とかには厳しいですからね」
「その節は申し訳ありません」
「いえいえ、父の方こそ厳しく言ってすみません。もしよかったら、私の方で父の方に言っておきましょ
うか」
「えっ、いや、そんな……。でも、頼めるなら」
「わかりました。ちょっと待って下さい」
「えっ、今――」
「今日の夜、一緒にお食事する席用意しました」
「あっ、はい。ありがとうございます」
「大丈夫ですよ。フォアグラ食べに行くんでしたよね。おいしい店予約したので」
「えっ、あいつも連れて行くんですか」
「ええ、フォアグラ食べに行くんですよね」
「いや、そうなんですが、仕事の話ですし」
「大丈夫ですよ。今日は『お休み』なんですよね」
「ええ、まあ……。えっ」
「私が居るので大丈夫です」
「はあ」
「まあ、普通にお食事するだけですよ」
「はい」
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