シン✳︎ニホン
結城 刹那
第0話:プロローグ
2032年12月25日午前0時過ぎ。日本の大部分に雪が降った。
ホワイト・クリスマス。誰もが夢見る、特別な日の特別な出来事だ。
この光景が見られるのは、ごく稀である。行ってしまえば『奇跡』のようなものだろう。
そんなロマン溢れる今日。人々の心を躍らせたのは、それだけではなかった。
空から舞い降りる結晶は、ただの白い雪でなく、蛍のような輝きを持った雪だからだ。
光る雪と言う前例のない現象がクリスマスに起こった。ただでさえ奇跡の状況に、上乗せするように神秘が起きる。
だからこそ、人々は空から舞い降りる光の結晶に目を輝かせていた。
今日からきっと何か良いことがありそうだと、光る結晶に時代の切れ目を感じながら。
だが、見上げている彼らは知らない。
空から舞い降りた光は、やがて地面に墜ち、輝きを失ってしまうことを。
*****
2086年4月19日
加賀美 凌駕は目の前に映る人型の混沌の闇に視線を送り続けていた。
どうしてこうなってしまったのだろう。
ここに来るまでに得た『希望』。その希望は、目の前の混沌の闇によって、すっかりと『絶望』へと変わってしまった。
助けると誓ったはずなのに。親友にも。目の前に映る彼女にも。
それが、どうしてこんな結末を辿ってしまったのだろう。
手から感じる肌の温もりは徐々に温かさを失っている。比例するように流れる鮮血は徐々に増していた。凌駕は失われた命の重みを感じながら、目の前に映る彼女から視線を離せずにいた。
体から邪悪な黒い気体を発する彼女。エメラルド色の瞳は輝きを失ってしまっている。彼女の周りに展開された黒い生命体はこちらを睨みつけていた。目はない。だが、強い視線を感じる。
凌駕は、ここに来る前に見た彼女の表情と今の表情を重ねる。
心優しかった彼女は、すっかりと恐喝な無の存在へと変わっていた。
人の心はこんなにも、もろく簡単に壊れてしまうものなのかと思わざるを得なかった。
いや、今はそれどころではない。
自分は死へとつながる崖に立たされている。迂闊な行動をすれば、手に抱える彼女と同じように死地へと誘われてしまう。
一度呼吸を整えようと深呼吸をする。
危機的な状況であれ、自分のやるべきことは変わらない。
心を落ち着かせようとした彼は、ここに来るまでの記憶を遡った。
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