第29話「凛風」500文字【静かな鎮守の杜、リップスティック、殴る】

静かな鎮守の杜で、夕風ゆうかぜが中学生のかたまりを通り過ぎた。

地面に倒された僕は諦める。神様に願っても、結局丸裸にされるのだ。

さつ、わざと持って来ないだろ」

Bが尻を蹴り、Cが腹を殴る。

「毎日の諭吉は大変かな。でも明日はヨロシク」

奪った小銭をもてあそぶA。

僕は精いっぱい声を張り上げた。

「もう、やめてください!」

ざざっ。

枝が揺れ、何かがAの頭に直撃した。

「痛でっ」

折れたリップスティックが転がり、傍らに白装束の女が下り立った。

「えぇぃ、騒々しくて気が散るわ! 化粧もできん」

唇に引いた紅がいびつな弧を描いている。吊り上がった目、逆立つ髪、背中に羽、着物の裾からは獣の脚。

「バ、化けモノ。ああつっ」

きびすを返したAが小銭を放り出す。腫れ上がる手を押さえ、悲鳴をあげて逃げ帰り、BとCも後に続いた。


仮初かりそめの姿とはいえ無礼な。それと小僧、さっさとパンツを穿けぃ!」

震えながらも身支度を終えると、

「おぬしの声、なかなか凛々りりであったぞ」

女は豪快に笑い、突風に乗ってやしろに消えた。ぐみの実ひとつ残して。

僕は拝殿に小銭と赤い実を供え、手を合わせた。


翌日から、奴らは近づかなくなった。

覇気のないAの手の甲には、目玉のような赤い痣が残った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る