第27話 「だるま戦士」500文字【 目薬、ミニスカート、蜃気楼】

幼なじみで友達だけど、ずっと好きだった。


君の告白に返事ができず、ひと月が経つ。

『見たいものがある』

普段より声のトーンが低い君と、11月の海を臨む。

日中の陽気が、夕方になって急に冷え込むと、ほのかに感じる隣の体温が頼もしい。

ひとつの光景が過る。


お気に入りのミニスカートをはいて、幼稚園の庭で遊んでいた。

女子はままごと、男子は戦闘ごっご。

私たちの目の前で、草を引っこ抜いていった君は、駆けまわる戦士たちから離れて座り込んだ。

やがて、ままごとの円陣にやってくると、私の頭にクローバーで編んだ冠を載せた。

女子の輪の中で静かな炎を感じて、君の前で冠を千切ってしまった。

戦士を傷つけた私。


高校卒業後、お互い地元に就職し、付かず離れずの関係だけど、いまだにあの時のことを謝れずにいる。


太陽が滲む。

もう一つの揺らぎがくっついて、海面へと導く蜃気楼。

真っ赤なだるまが水平線で睨んでる。

あの日、君が泣いていたように。


「あー、目が痒い」

そそくさとポケットから点眼薬を出して振る君。

「最後に。一緒に見れて良かったよ」


私は。

零れた溜息を拾うように、そっと口づけた。

「遅くなってごめん」

固まっている君の頬、目薬が流れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る