第17話「優しい道」500文字 【土、狼、穏やかな脇役】

 山道をふさぐ岩の前で、少女が泣いていました。

 それを見た狼は、渾身の力で岩を転がし、土にあいた穴に潜り込んで、通れるようにしました。

「おおかみさん。ありがとう」

 狼は穏やかな気持ちになりました。

 続いて村人がひとり、またひとり通ります。

 いい事は疲れるもんだな、思わずため息がもれました。


 カラスがやってきて、背中を突きました。

「ほっといてくれ。あの子が戻って来るまでここにいるんだ」

「馬鹿だな、人間の為に脇役になって。あの子は誰かに連れて行かれたよ!」

 狼は飛び起きて走り出しました。けれど、日が暮れても少女は見つかりません。

 

 煌々と夜道を照らす月。当たり前だと思っていた事が心強く、「ありがとう」を言うと、草原で眠ってしまいました。


 翌朝カラスの声に目を覚ますと、向こうから、おじいさんと一緒に少女がやってきます。狼は木に隠れながら後を追い、元気な様子に安心しました。

 

「昨日は、おおかみさんのおかげで、ここを通れたの」

「優しいおおかみだね」

 道は新しく土が盛られ、元通りになっています。二人は食べ物を置いていきました。

 

 カラスが飛んできます。

「俺は、穏やかな脇役なんだ」

 誇らしげに胸を張り、林檎を分けてあげました。



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