第15話「新機能」500文字 【虹、車、消えた記憶】

『不要になった思い出を処分致します』

 クラウドサービス会社から新機能の案内が届き、早速申し込んだ。 

 専用機のスマホ型本体にマイク付ヘッドフォンを繋ぎ、失恋の思い出を語り始める。

 彼女の存在を忘れられないのは、職場の同僚だからだ。

 恋愛中の出来事をイメージしたり、声に出したりしていると、本体画面に虹色の帯が伸びていき、頭がすっきりしてきた。

 吸い上げてもらった記憶は、サービス会社で保管され三十日後に削除される。

 翌日からは、彼女は同僚以外の何者でもなく、仕事も円滑に進んでいった。

 

 ちょうど三十日になる朝、激しい頭痛に襲われた。

 サービスのヘルプチャットで訴えると、消えた記憶を補う必要があるとの事。稀な例で、喪失分に対し経験値が満たない為の症状らしい。応急措置として、フリー登録の記憶を送信してもらった。

 

 それは懐かしい景色だった。

 海岸沿いのドライブ。助手席からの眺めだろうか、車を運転しているのは僕。これは、手放したはずの記憶。


「どうして思い出が消えてないんだ!」

 しばらく待つと返答が表示された。

「このフリーデータは、記憶処理のご依頼をされた、他の会員様からの寄贈分です」


 記憶の中で彼女は笑う。

 頭痛は、止まない。




 



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