第3話 日常が非日常に変わった

 妊娠しているというショックを、そのまま泣きながら母に話した。相手は誰かと聞かれても、私は知らないとしか返せない。それが弟だなんて話したら、大変なことになるという事だけは分かっていたからだ。


 検査をするため、ひっそりと母と産婦人科に行った。間違いなく妊娠していた。しかも、妊娠12週を超えていたのだ。12週未満の妊娠は、まだ形もない胎児を子宮から搔き出すか吸引をして堕胎するので日帰りも多い。12週を超えた場合「人間」としての扱いを受ける為、人工中絶しても役所に火葬の届をしなければならない。無理に早産する様に子宮口を広げて、中絶する。もっと早くに気が付いていれば、もっと傷は浅かったのだ。でも、私はまだ子供だったからそんなことも分からなかった。14歳の母ってドラマがすごく嫌いだった。立場は違えど、私もそうだったからだ。


 私は何度も下腹部を殴った。泣きながら殴った。これさえ消えてしまえば、私は元に戻れると信じていたからだ。


 そこは小さな病院だったため、隣の市民病院で堕胎することになった。

 1週間入院しないといけないため、私はその間学校を休んだ。入院前、父に誘われて近所を散歩した。

「相手は誰なんだ?」

 その頃、上級生の素行悪い人たちが女の子を乱暴していると噂があった。父も母も、私がその人たちに襲われたんだと思っているようだった。私は知らないとしか答えられなかった。


 その頃も、うちは貧乏だった。手術代を用意するのも大変だっただろう。でも私は自分が世界で一番不幸だと思っていたから、そんなことも考えられなかった。


 病院で、主任看護師に性教育的な話を散々された。詮索されないよう、日本語が話せない海外の妊婦さんが同室だった。


 手術は、全身麻酔で行われた。目を覚ました時私は、もう前の私ではなかった。命の塊になるものを消してしまったのだから。元の自分に戻れるはずもなかった。


 その日から、また地獄が始まった。

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