0-02
……あれから、一体何年経ったのだろう。
朝日が昇ったばかりの誰も起きていない時間帯、一人で屋根の上に座り込んでぼんやりと夢想していた。 あの時、孤児院でのうのうと生きていた俺の人生が変わったあの日。目が覚めたら見たこともないような機械的な白い空間に寝ていた。
ここは、何処だ。
呟こうとして、掠れた声しか出ない。首の上を鎖が横切っていることに、ジャラリという不快な金属音で気付いた。目だけを動かして自分の様子を確認すると、手術台のような、否、手術台そのものに肢体を鎖と手錠で繋がれていた。いつのまにか手術着を着せられ、身体を縛られて全身一寸すら動かせなくて、とても不安で……。
その時、自分はもう二度と空なんて見られないのだと思った。幸せな未来なんてものはとうに諦めたはずだった。いや、舌を噛み切って死.のうとしなかった時点で諦めていたとは言えないか。とにかく、こんな風にまた外の空気が吸えるとは思いもしなかった。
小さなプレハブ小屋の屋根から見える景色は御世辞にも珍しいなんて言えないけれど、研究施設の咽せ返る程の清潔さと比べると眼に映る日常は涙が出るくらいに美しかった。自分が生きている事を今更ながらに噛みしめる。
屋根の下から足音が聞こえる。誰かが起きて活動を始めたのかもしれない。ああ、そろそろ部屋に戻らないと怪しまれるかな。
もう一度だけ焦がれていた景色を見やり、屋根から数メートル先の地面に飛び降りた。
0-02 昔、現在.fin.
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