第12話

「そんな大人数で私一人を相手にして情けなくないんですか?」


 たった一人を潰すためにちゃんと陣形を組んできた。


 確かに私は天才で最強だけれど、見ていて非常に情けない。


「はっ!これは教育なんだから問題ないんだよ!」


 そんな時代錯誤の発言と共に接近戦を仕掛けてくるアイドル達のリーダーと『loveshine』の一人。


 魔力で身体能力を底上げし、素手で攻撃してくるわけだけどその腕前は非常にお粗末なものだった。


「小物は小物ってことね」


 別に私も武術に詳しいわけでは無いが、それっぽく相手をすることが容易だった。


「ふざけるんじゃないわよ!」


 二人は私の言葉に激高するが、特に何かが変わるわけでもなく。


 そんな事よりもこのアイドル集団のリーダー格に集中力を割いていた。


 この中ではひときわ魔力が高く、現状の私では相手をするのが困難だ。


 1対1ならどうにか出来るかもしれないが、流石にこの状況では厳しい。


 都合よく遠距離型であったため、目の前の二人が壁になるように立ち回ることで行動を封じてはいるが、時間という制約があるためずっとこうしているわけにもいかない。


「何はともあれ一人ずつ倒していくしかないようね」


 本当に衣装で来てなくてよかった。あの格好だったら守る物が多すぎるわ。


 スピードを出すために足に魔力を込めたまま、目の前の二人を倒す。


 その瞬間私を狙って魔法が飛んでくるので、走ってそれを避けつつ遠距離担当の一人に近づき、盾の代わりにする。


 人を盾にするのはあまり気が乗らないけれど、そう言っている場合ではない。


 そして一人目を倒し二人目の所へ向かう。


「結局倒されてしまうのだから、まとめて攻撃してしまいなさい!死ななければ私が魔法で治すわ!」


 リーダー格の女は、対策の為に大胆な手法を取った。


 昔を生きた人間なだけあって、こういう戦闘に慣れているようね。


 アイドル達は私に向けて絶え間なく魔法を撃ち続ける。それも全て別系統の魔法だ。


 防御で対策出来ないようにするための戦術だろう。私の時代では聞いたことが無いので、少し先の戦術だろう。


 ということは未知の戦術を対処しつつこれだけの数を相手にしなければならないのね。


「やってやろうじゃないの」


 天才に戦術で勝負するのね。俄然やる気が出てきたわ。


 私が反撃に出ようと魔法を準備したと同時に炎で出来た矢が大量に飛来した。


「何なの?」


「私は『ARROWS』の巴よ!」


 巴という女性は再び矢を放ち、私のそばに降り立った。


「大丈夫?アリスさん」


「私は何ともないわ。それよりもどうしてここに?」


「あなたを助けに来たのよ。何やら悪い噂を聞いたから駆けつけてみたら、この有様だったってわけ」


 ナイフの所持ですら犯罪になるこの世の中で堂々と弓を所持している所に少し気になるところはあるけれど、魔法使いだしそこら辺は解決しているわよね。


 それよりも重要なのは助っ人が来てくれたということ。


「ありがとう。この数は流石の私でもきつかったから」


「たった一人が来たくらいでどうなると思っているの?」


 リーダー格の女は、自分が圧倒的有利だということを知っているからそれでも余裕みたい。


「どうにかなるのよ」


「この私を相手に?強いといっても私よりも魔力は劣るじゃない」


 馬鹿にしたように笑うリーダー格の女。相手の魔力を推し量る魔法を使えるみたいで私の力量をよく分かっていた。


 実際に魔力量は魔法使いとしての資質に直結しており、基本的に間違いは無い。


 けれど、私の前世は過去最強の魔法使い。


「この程度の差、丁度いいハンデよ」


 私は周囲を闇で覆い、全員の視覚を奪った。


「私がリーダー格の女をやるわ。後は倒せる?」


「勿論です」


 私は巴さんに雑兵の処理を任せ、リーダー格の女との一騎打ちを始める。


「どうなっているの?」


「何も見えないわ!」


「でも相手も見えないはずよ!」


 雑兵の方々は突然消えた視界に動揺していた。予想通りリーダー以外は戦闘慣れしていないらしい。


「これで一騎打ちね」


「生意気な手を使うわね」


 お互いに視界は真っ暗だが、感知魔法によって居場所は分かっていた。


「あなたが無様に負ける姿を隠してあげるために気を遣ってあげただけなのに」


「どちらが負けるんでしょうね」


 とか言いながら先手で攻撃を仕掛けてきたのはお相手。


 魔法が来るのは分かっていたので普通に避ける。


「なるほど。魔法はこうまで進んでいるのね」


 飛んできた魔法は私の時代の物よりも遥かに効率的で、攻撃力が高かった。


 魔法を極限まで小さくして密度を上げる手法は当時も使っていたけれど、ドリルのように高速回転させることで貫通力を上げるやり方は無かった。


「どうやらあなたは随分古い時代の魔法使いみたいね。ならこれを食らいなさい!」


 私の反応を見て馬鹿にしつつ、様々な魔法を丁寧に披露してくれた。


 それぞれが魔法の属性に合わせて様々な工夫が凝らしてある。未来でも研究は進んでいたみたいね。


 魔法が殆ど潰えてしまっている現代が悲しいわ。


 もし現代まで魔法が自由に使えるものだったら、どれだけ興味深いものだっただろう。


「未来の魔法は非常に素晴らしいわ。色々と学ばせてもらいました。ありがとうございます。先輩」


 私は魔力で剣を模した物を氷で作成する。


 そして全身に魔力を込め、強化された肉体で一気に距離を詰める。


「なっ!」


 咄嗟に防御を展開したけれど、腕諸共まるで豆腐のように簡単に切れてしまった。


「ぎゃああああああ!」


 切断された腕の痛みに耐えかねて悲鳴を上げるリーダー格の女。


 痛みに耐える訓練はしていないらしい。これで魔法はしばらく使えないだろう。


「そちらも終わりましたか」


 巴さんの様子はどうだろうかと様子を見てみると、そちらも全滅らしい。


「本当に助かったわ。ありがとう」


 その場に居たアイドル達を纏めた後、巴さんにお礼を言った。


「頑張っている人は応援するのが私の主義だから。それよりも早くライブに行って。処理は私がしておくから」


「ありがとう!」


 私は急いで皆が居る楽屋へと戻った。


「だいぶ遅かったね。なんかあったの?」


 戻ってきたことに秋が一番に反応した。


「アイドルの先輩と会ってね。ちょっと話してたらこんな時間になった」


 一応嘘は言っていないわ。


「え!?誰!?」


 それに真っ先に食いついてきたのは翼。そういえばアイドル好きだったわ。


「『ARROWS』の巴さん。ライブ頑張ってだって」


「私も会いたかったあ!連絡先とか交換した?」


「完全に忘れていたわ」


 後でお礼とかしたかったのに完全に聞きそびれていた。


「残念」


「でもまた会えるでしょ」


 残念がる翼に対して、妙な確信を持って話すのは凜。


「あの人の事知っているの?」


「内緒」


 凜はそれ以上話してくれなかった。


「3人共そろそろ着替えよ」


 時間が近づいてきたらしいので、そろそろ準備に入ることにした。


 着替えやセドリの確認、ライブで話すことの再確認など直前に出来ることはあらかた済ませ、私たちの裏で演奏してくれる方々へあいさつ回りを済ませた。


 大原さんが手配してきたミュージシャンの方々は全員優しく、ライブ前の雰囲気は非常に柔らかかった。


 これなら安心してライブに取り組めそうね。


「これから本番入りまーす!」


「「「はーい!」」」


 そしてライブは始まった。

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