第10話
「楽屋挨拶はしなくて良いんだよね?」
芸人は上下関係に厳しいという話をよく聞くので、念のため聞いてみた。
「うん。この番組はレギュラーの人たちに直前まで出演者を伝えないってルールだからね」
「他の番組だったらしないといけないけど」
「本当にサプライズなんだあれ」
テレビ番組はあくまでも面白さを重視するエンタメだから、演出を過剰にする傾向にある。だから収録まで出演者を伝えないといっても番組開始直前には知らせるものだと思っていた。
「あの人たちは凄いから」
やらせなしの本当に一発勝負で何年もやって上手くいっているあたり、本当に実力が高いことがうかがえる。
「そろそろ収録が始まりますので、ゲストの入場口まで来てください」
「「「「はーい!」」」
スタッフの方に呼び出され、収録が始まった。
「あと少ししたらハロウィンになりますけど、皆さんは仮装したりします?」
「俺はやっぱりしないかなあ」
「僕はバンバンする予定ですね」
「福井がハロウィンって珍しいな」
「息子が一番かわいい時期なので、色々着せてみるついでに僕たちもやろうってことですね」
「もう3歳だっけか。可愛いよなあ」
「やっぱり子供にはお化けとか魔法使いのコスプレとかさせる?」
「そうですね。やっぱり王道はそこなので」
「他にも警察官とかスーツとか着させても良いかもな」
「それいいですね。妻と話して用意します」
「んで、福井はスモックとかセーラー服とかを着るわけだ」
「全部僕が来たらアウトな奴じゃないですか!自分で着るくらいなら妻に着てもらいますよ。なんでそのチョイス何ですか」
「その二つを用意すると囚人服もセットで付いてくるからお得なんだよ」
「捕まるかアホ!」
「え~本日のゲストはお呼びいたしましょう。おっ今が旬のOurTube系アイドルです。どうぞ!」
私たちはその声に合わせて、舞台へと立った。
「「「初めまして、『magic stars』です!よろしくお願いします!」」」
「こらまた可愛らしい方が3人、お名前は?」
初めて会う年上にタメ口で話すのはどうかと思ったが、表でのキャラをこういう形にしてしまった以上、やるしか無いわ。
「私は最強天才アイドルの星野アリス!」
「そして私は日野翼!翼って呼んでくださーい!」
「蒼井凜」
「えっと、アリスさんは自称天才?」
「自称じゃないわ!本物の天才よ!」
私は自信満々に胸を張って宣言する。これは事実だもの。
ここでカンペが出る。
『星野アリスさんは今高校2年生ですが、勉強を教える動画が大バズリしています』
「へえ~どんな授業?」
上野さんが前振りとして聞いてくれた。
「基本的には学校で習う事柄ね。直近だと高校数学の微分を動画にしたわ」
「それはすげえな。調子に乗った馬鹿じゃなかったわ」
原口さんが素直に感心していた。確か私たち位の子供が居るんでしたっけ。
「そうでしょうそうでしょう!」
私は乗り切ったわ。
「そして、翼さんはこのグループのリーダー?」
福井さんが翼に話題を振る。
「いえ、こちらのアリスがリーダーです」
「一番最初に挨拶した私が普通リーダーでしょ!?」
「頭は良いけど色々と残念な感じ出てるのよ」
福井さんに文句を言うと、そう返された。
「どこが?私は完璧な超絶人間。パーフェクトじゃない!」
「そういうとこ」
そういうとことは!?!?!?
ここでオープニングトークが終了したので、椅子に座る。
「改めまして本日のゲストは、『magic stars』です!」
大きな拍手と共に番組が本格的に始まった。
まずはプロフィール紹介のコーナーで私たちの活動をざっくりと説明した。
アイドルをやっているが、余りにも小さい事務所なので資金稼ぎにOurTubeを始めたらそれぞれの動画がバズって大人気になったこと。そしてライブの宣伝も無事に出来た。
その後、アイドルとしてのプチ暴露みたいなコーナーで、翼がアイドルの事を好きすぎてする必要も無いのに舞台挨拶に行きまくっている話や、凜の隠れた特技だったルービックキューブの披露など、各々個性を出すことが出来た。
ぱっと見の印象で一番キャラが強いのが私だったので、何も考えることなく私を中心に回ってはいたが、流石はプロの芸人。他の二人の影が薄くなることはなく、しっかりと個性を発揮することが出来ていた。
どこがどのように放送されるかはしばらく先なので分からないが、上手いこと乗り切れたのではないだろうか。
番組の終了後、私たちはレギュラーの方々に挨拶しに行った。
最初はビーフシチューの二人に、次はチューターの二人に。そして最後にポセイドンの三人へ向かった。
「magic starsです」「「「今日はありがとうございました!」」」」
「こちらこそありがとう」
「めちゃくちゃ良かったよ。テレビ初出演なのに流石」
「ありがとう」
原口さん、七倉さん、堀中さんの順で返事が来た。
「番組中ずっと楽しかったです」
「また出たいです」
「それは良かった。これからも頑張ってね」
二人がそう言うと、優しく七倉さんが返してくれた。
「「「はい!」」」
「「「それでは失礼します!」」」
そう言って私たちはポセイドンの楽屋を出た。
そのまま楽屋に戻ろうとしたら、
「アリスちゃん!ちょっと待って」
堀中さんが後ろから追いかけてきた。
「はい」
「ちょっとアリスちゃんと話があるから、先行ってて」
「「分かりました」」
二人は言われた通りに、楽屋に向かった。
「何でしょうか?」
「ねえアリスちゃん。魔法使えるよね?」
唐突にそう言われた。
「えっと……」
これはどっちだ?
「別に言わなくても良いんだけど、もし使えるのならって話をするから聞くだけ聞いて」
「はい」
「アイドルの人たちなら別に問題ないんだけど、それ以外の人たちには絶対に見せないようにしてね」
「どうしてですか?」
「芸能界には少し危ない人が居て、もしそれを見られたら標的になるかもしれないんだ」
「よく分からないですが、分かりました」
「まあ僕は使えないんだけどね~ んじゃ!」
そう言って堀中さんは自分の楽屋へ戻った。
突然のことによく分からないまま、私も自分の楽屋へと戻った。
戻ると当然何があったかを聞かれたが、魔法についてを話すわけにもいかないので適当に黙っていることにした。
それに、もし堀中さんが言っていることが本当なら教えることで巻き込んでしまうかもしれないものね。
その夜、私はヒミコに電話した。
『アリス、どうしたの?』
「今日堀中さんからアイドル以外に魔法が使えることをあまりバレないようにしろって言われたんだけど何か知ってる?」
『私も同じこと昔言われたんだけど何で危ないのかはよく分かんないんだよね。ただ、芸人さんの中にも魔法が使える人ってのは結構いるよ』
「そうなんだ。強い人だとどんな人が居る?」
『一番強い人だとリズムたけしさんだね。テレビでの演出を魔法で全てやってしまう位に凄い人だよ。最近映画に手を出しているけど、その理由はテレビでは出来なかったよりド派手な演出をやりたいからなんだって』
「そうなんだ。今度その人の映画でも見てみようかな」
『魔法で演出しているって思いながら見ると少し違った面白さがあったよ』
ヒミコがお勧めするってことはかなり面白いのだろうし少し見てみよう。
その夜、リズムたけしという人が監督を務めた映画の鑑賞をすることに。
「なるほど。ヤクザ物の映画ね」
基本的には何の変哲もないヤクザ映画と言えるものだった。演技力も中々なもので、間者として生きていけそうな者ばかりであった。
平和な世の中では、こうやって人を魅了する方面に進んでいったのね。
そんな感じで普通に映画として楽しんでいた。
「戦闘シーンね」
主人公が別のヤクザの本拠地に攻撃を仕掛けるシーン。
銃と鉄パイプなどの武器を織り交ぜた室内での戦闘だった。
「それはそうだけど本物の戦闘は出来ないわよね」
流石に役者やスタントマンの方々が全力で殺しあうわけにもいかないので、怪我をさせないようにかなり抑えて戦闘が繰り広げられていた。
けれど、ちゃんと相手が怪我をするくらいには強い攻撃を入れており、一般人の方々にはかなり迫力のある戦闘だ。
この映画が注目される理由がよく分かる。
そんな中、室内に向けて誰かがロケットランチャーを打ち込んだ。
室内は派手に爆破し、敵の幹部は綺麗に吹き飛んでいた。
「これは魔法ね。爆発の魔法と強風の魔法を同時に発動させることで威力を演出しているみたいね」
私たちの時代にもよく使われていた手法だ。脱出だけでなく演出としても使えるのね。
その他にも、海の近くの戦闘で爆発による水しぶきを上げるために魔法が使われているなど、様々な所で魔法が散りばめられていた。
「結構面白かったわね。ヒミコに連絡しておきましょう」
私はヒミコにメッセージを送ってその日は就寝した。
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