3魂目

「閻魔様。船が無事にたどり着いたようです」



赤い顔の鬼がいる反対側の通路の奥から、青い顔の鬼が駆け寄ってくる。

この鬼も、赤い顔のと同じくらい、私の傍でよく働いてくれている。

大きさは同じくらいだが、此方は赤いのに比べて表情は割と穏やかだ。

とは言え、人間にとっては残念なことに怖い顔だろう。

私は何とも思わないが。



「そうか。では、その者達を此処へ」


「畏まりました」



深々と一礼してから、青いのは踵を返す。

鬼とは思えないくらい、優雅な動きで。


完全に姿が消えた後、赤いのがスッと寄せていた資料を差し出してくる。

そして、そのまま表情を変えずに口を開いた。



「閻魔様は、決して長命ではありません」


「急にどうした?」


「その長さは、その代によって異なります」


「知っているよ。お前が教えてくれたからね」



閻魔に就任した際に、赤いのが私に話してくれた。

閻魔というものは、どういうものなのかを事細かに。


閻魔の任期という名の命の灯は決して長くはない。


早い人で、10年もしない内にその任を全うする者もいるという。



「しかし、そこに仕える鬼は、半永久的に生きるのです。

 そして、その中でも特に長く生きた鬼は、感情を知ると言われています」


「ふむ…、それは初めて聞いた」


「身近なところで言うならば、先程の青いのがいい例でしょう」


「なるほど。確かにあいつはころころと表情を変えて、見ていて飽きないな」


「何故か、ご存じですか?」



唐突に振られた質問を、不思議に思い眉をひそめるが

すぐにいいや、と首を横に振る。



「閻魔様が、いなくなってしまうからですよ」


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