残照

雪月

残照

どうやら人はそれを追い求めるものらしい

形も無く、人によってそれぞれ違う

生きていくことと、それを求めることは同じことだと言う


ある人は、家族だと言う

別の人は、やりがいのある仕事だと言う

誰かに認められることがそうだと言う人もいる

快楽、愉悦、満足、愛情、理解、認知、爪痕

多くの人が口にするのだから、確かに存在するのだろう


だけど、わたしはそれを見たことがない

わたしは、それを実感したことがない


喜びを感じたことはある

その延長に、ずっと先にあるのだろうか

想像してみる

思い描いてみる


だけど、それは霧のように、いつも消え去る

いつかどこかで出会うのだろうか


生きていった先で掴み取るのだろうか

それが何かも分からないというのに


ずっと暗闇を歩いている

遠くで輝く月を見上げている

あれが、そうなのかもしれない


遠く、憧れのようで、触ることも出来ず、存在は知っていても、得ることはない

暖かさは感じない

だけど、光輝いている

わずかな灯火のように、晴らすことはないけど、世界を照らしている

陰ることもあり、それを頼りにすることは出来ない


もしかしたら、ひとりでは見つけられないものなのだろうか

誰かの助けが必要なものなのだろうか


それならきっとわたしはそれを得ることはないのだろう

それが欲しいとずっと思っているのに


具体性もなく、実感もなく、思い描くこともできず、単語でしか知らないのに

ずっと焦がれている


得ることなんて無いだろうという確信とも言える痛みを抱えたまま

いつかわたしは、わたしが終わる日までこうして月を見上げているのだろう


月を見失い、その名残が消えていくのを見つめているのだろう

銀色の光が溶けていくその光景を

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