第10話

 この辺のゴブリンは洞窟を根城にしているとのことだが、その構造は単純らしい。

 特に枝道などなく一本道で洞窟は続いており、その一番奥に女性が監禁されていると思われる。


 数は三十から四十辺り。

 襲撃の一番の目的は女性の救出、ゴブリンの殲滅ではない。

 しかし村の女性を守りながら、それだけの数を相手に一本道を戻るのはしんどい。

 ゴブリンを丁寧にプチプチ潰しながら進むのが現実的だ。


 ただ一つ懸念がある。

 女性を盾にされる事、こうなると厳しい。


 ――方法はあるけどね。


 上手くいくかは分からない。





 一行は洞窟の前に。

 シヌシヌがズンズンに目配せする。


「シヌシヌさん、本当にやるんで?」


「ああ、やる」


「何で俺なんです? 他にもいるじゃないですか」


「お前が一番適任だ」


 ズンズンは洞窟の前でしばらくモジモジしていたが、シヌシヌの強い視線を受け意を決する。


「くそっ……」


 吐き捨ててゴブリンの巣に突入した。



 作戦はこうだ。

 油断しているゴブリンの隙を突き、ズンズン単独で進入する。

 最深部の拐われた女性の元に一気に辿り着き、ズンズンが盾になって守る。

 ズンズンが時間稼ぎをしている間に残りの四人でゴブリンを殲滅する。


 ズンズンは刹那爆散隊の頭目だけあって腕力はチーム一、打たれ強さもチーム一、巨体に似合わず足の速さも一番だ。

 最も適役だとしてシヌシヌから指名が入った。


 ちっくしょおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!

 ズンズンの声が洞窟にこだまする。


 ――声を出すなよ……気付かれるだろ……。


 シヌシヌは顔をしかめた。




 洞窟内がゴブリンの声で騒がしくなる。

 ズンズンの進入は即気付かれ、ゴブリンは曲者を排除すべく動いているのだろう。

 実際ズンズンは襲いかかるゴブリンを必死に払いのけ、奥に向かって走っている真っ只中だ。


 強行派の村人達とシヌシヌ率いる爆散隊は少し待たなくてはならない。

 

「ジョフ君、あんたこの作戦は上手くいくと思う?」


 シヌシヌは不安そうに洞窟の入口を見つめるジョフに問うた。


「分かりません……上手くいけばいいんですが……」


「俺はね、もしズンズンが失敗したら、そのまま見捨てて帰るつもりでいるよ」


「え……」


 ジョフは驚いた顔、ピッゴは下を向き、トンジは目をつむり、ゲンスはシヌシヌを睨む。

 シヌシヌは無視して続けた。


「俺にもやらなきゃならない事がある。それまで死ぬ訳にはいかないんだ。不必要なリスクを回避出来るなら他人の命なんて安いもんだ」


「そんな……」


「あいつの代わりならいくらでもいるしね」


 その時、洞窟内からズンズンの声が。

 着いたぞおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!

 声の大きさも爆散隊一番、やはり適任だ。


「成功したみたいだね。じゃあ、お先に」


 刹那爆散隊は敵の巣に突入した。

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