曲がり角 〜ゆきちゃんといっけなーい〜



「あ、この前私漫画みたいなことしちゃったんですよ」



「何をしたの?」



「職場に間に合いそうになかったので、パンをくわえて家を飛び出したんです。そしたら、見事に曲がり角で人にぶつかっちゃって。いっけなーい、遅刻遅刻って感じで」



「二十四才でいっけなーい、遅刻遅刻はまずいよ。って、ゆきちゃんの職場って小学校でしょ? 大丈夫だったの?」



「間に合ったには間に合ったんですけど、ぶつかった人にものすごく怒られちゃって……」



「あー、それは大変だったね」



「その、ぶつかった人が教頭先生だったんですよ」



「ん? 教頭先生と曲がり角でいっけなーいしちゃったの? それだと教頭先生も遅刻気味じゃない? なんで君が怒られたの?」



「パン咥えてたのが悪かったみたいで……」



「別に道でパン咥えてても問題なくない?」



「? 道じゃないですよ」



「え? そうなの? どこでぶつかったの?」



「学校の廊下です」



「は?」



「私のクラスの朝の挨拶に間に合いそうになかったので、パンを咥えたまま急ぎ気味に廊下の角を曲がったら教頭先生とぶつかって……。それで先生のジャケットにジャムつけちゃったんです」



「待って。ツッコミどころが多すぎるよ。何? 学校にパン咥えたまま出勤して、で、教頭先生にぶつかって、ジャケットにジャムをつけたの?」



「はい」



「それは怒られるよ」



「優しい人だったのでジャケットのことはあまり気にされてなかったんですけど、パン咥えて出勤とは何ごとだ、って。あと、まさかそのまま教室に入って児童の前に立つつもりじゃなかったんだろうなとも言われました」



「何もかも教頭先生が正しいよ。っていうか、家を飛び出した時からパン咥えてたんでしょ? いつまで咥えたままなの? ちゃっかりジャムまで塗ってるし」



「はい。なのでこれからはジャムは塗らないことにします」



「君反省してないでしょ?」


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