文学モドキ

高良麗沙

文字並べ

 ご機嫌いかがで御座いますか。わたくしは貴方に、これよりしばし、私のつまらない書きものにお付き合い頂きたいのです。いえ、書きものと言っても、頭の弱い私に書けるものなど、己についてくらいしか御座いません。これは、私のたった、一八年の人生振り返って、一度己を見つめようという思い立ちに依って生まれた拙い文字の列に御座います。さて、本題へ入らせて頂きます。


 物心ついた時から、私は芸術という物を好いていた様でした。鉛筆を握っては絵を描き、ピアノによく触れておりました。それを見た両親は、私にピアノを習わせる事に致しました。絶対音感、と言えばお分かり頂けるでしょう、私には、音を捉え、自由に奏でるといった才能がありました。そう非凡なものでも御座いませんが、幼い私にとってそれは、素晴らしく才能に恵まれているという感覚をもたらしました。

 ピアノを習い始めて間も無い頃から、私は才能があると言われ続けておりました。周りの子等に比べて、とても上手く演奏する子でした。また、耳が大変優れておりました(これだけは今も尚、胸を張れる事で御座います。外国の言葉を学ぶのに、これがどんなに役立つことか。)ので、人の奏でる音の良し悪し、また、その音が下等なピアノによるものかグランドピアノによるものかを、しっかりと聴き分けることが出来ました。その様に、人より少しばかり抜きん出た技術と才能を持ち合わせた私は、次第に完璧主義と成りました。或る日、祖父の家で団欒していた時の事、祖父が私に「何かピアノで弾いてくれないか」と仰いました。私は、何か弾いて見せようとも思いましたが、「まだ練習している最中ですから。」と言い、ついに弾きませんでした。練習している曲と言いますのは、誰が聞いても分かる様な間違いをするもので御座います。その様な、不完全なものを人様に聴かせるなど私には出来ない、そう思っておりました。今考えてみれば、不完全な曲を人様に聴かせる事を恥じていたのでは無く、完璧に演奏して見せられない己を恥じていた様に思います。

 一方で、私はまた、全力と言うものが分からない人間でした。こんな事を言うのは大変嫌味なことに聞こえるかも知れませんが、私は何時いつも人より努力を必要とせずに、人並みかそれ以上に物事をこなせるたちでした。それ故に私は、己の全力を知らぬ儘生きております。それは今でも変わりありません。学校で、学習塾で、また親からでさえ、「全力を出しなさい」と言われて育っております。しかしどう足掻いたとて、全力が判らぬ私が全力を出す事など到底叶わないので御座います。どこか、冷めているのです。己の全身全霊をかけて事を成すといった事が、全く不可能な人間であります。人々は皆、全力というものを出す事で、達成感やら結果やらを見つける事が出来ると言います。全力から遠いところにおります私は極めて中途半端で御座いました。何せ、完璧主義の成り損ないですから、完璧主義すらも完成させられない、何も成せない人間なので御座います。ははは、ちゃんちゃら可笑しい。常によく出来る人間を人様の前で演じる様に務めておりましても、私には全力で成り切る事が出来ない。矛盾の吹き溜りの様で御座います。とんだ矛盾が寄って集って出来た滑稽な人間だ。あはは。

 つまる所、私は実に中身の無い、何も持たぬツマラナイ人間なのです。自伝を書いたり、後に子に教育をするに向かぬどうしようも無い人間なのだ。ただ在るのは、中途半端に脳に集められた知識とそれに依って生み出された不完全な思想、そして、嫌に強い感受性のみで御座います。私は感受性が恐ろしく強いので御座います。物語を読んでは涙し(私は、学術試験の最中ですら、国語の設問の物語に涙を流す事しばしばで、これには大変辟易しております)、話の中の架空の人物に想いを寄せ、酷く共感するのであります。とりわけ、私は悪役に魅入ってしまう悪癖を持っております。何故悪癖かと言いますと、私は、気に入った登場人物に酷く想いを募らせてしまう為で御座います。そのくせ、その登場人物達はこぞって絶命していくのでたまったもんじゃあ無い。作中のヴィラン達は皆妖しい香りを漂わせ、どこか闇の見え隠れする端正な顔立ちを思わせ、皆儚くもその命を落としていく。美しい。また、彼等が闇へと堕ちていく様が描かれているのも私を惹きつける一因として間違い無いのであります。これについてはまたの機会にお話しさせて頂くとしましょう。この悪癖に依って、私は毎夜毎夜、涙で頬を濡らしております。いやに強い感受性の所為せいでもあります。こうした生活を続けている所為か、遂に私は、恋というものの仕方すら忘れてしまったので御座います。若さに溢れた、わば青春の真只中に於いても生きた人間に恋というものが出来ないので御座います。ここまで聞いてお判りで御座いましょう。私は、実に中身の無い、無力でちっぽけな人間です。想い人すら現実世界に見出せず、フィクションに逃避して仕舞う様な人間です。最早全てをさらけ出しました。これ以上、お話しする事は御座いません。強いて言えば、私の趣味嗜好についての少し下劣な話に成って仕舞うので、ここで語る事は控えておきます。



 少々長く書き過ぎたかも知れません。ここまでお付き合い頂き感謝申し上げます。え?もう時間が無い?いえいえ、それは良くない。嘘はいけません。このツマラナイ人間の書いた文学モドキの様な書きものをここまで読んだのだ、貴方は暇を持て余している。違いない。次は貴方だ。貴方のお話を是非ともお聞かせ頂きたい。さあ、この文面に向けて、貴方の話をして下さいませ。私はここで聴いております。何?お前はここに居ないから聞こえないだろうって?何を仰る。私は文字というものに心を奪われた一人で御座います。ここで、貴方のお話するのをずっと聴いております。だから、どうか聴かせて頂けないだろうか。話が下手だ?構いやしません。何せ私も、この様な形で長文をこしらえるのは初の試みで御座います。大変不恰好で読みづらい文章だった事を詫びさせて頂きたい。ですから、ただつらつらと、ほんの少し心の内をお話し頂くだけで十分で御座います。それでは、私は少し黙ることに致します。

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