文学モドキ
高良麗沙
文字並べ
ご機嫌いかがで御座いますか。
物心ついた時から、私は芸術という物を好いていた様でした。鉛筆を握っては絵を描き、ピアノによく触れておりました。それを見た両親は、私にピアノを習わせる事に致しました。絶対音感、と言えばお分かり頂けるでしょう、私には、音を捉え、自由に奏でるといった才能がありました。そう非凡なものでも御座いませんが、幼い私にとってそれは、素晴らしく才能に恵まれているという感覚をもたらしました。
ピアノを習い始めて間も無い頃から、私は才能があると言われ続けておりました。周りの子等に比べて、とても上手く演奏する子でした。また、耳が大変優れておりました(これだけは今も尚、胸を張れる事で御座います。外国の言葉を学ぶのに、これがどんなに役立つことか。)ので、人の奏でる音の良し悪し、また、その音が下等なピアノによるものかグランドピアノによるものかを、しっかりと聴き分けることが出来ました。その様に、人より少しばかり抜きん出た技術と才能を持ち合わせた私は、次第に完璧主義と成りました。或る日、祖父の家で団欒していた時の事、祖父が私に「何かピアノで弾いてくれないか」と仰いました。私は、何か弾いて見せようとも思いましたが、「まだ練習している最中ですから。」と言い、ついに弾きませんでした。練習している曲と言いますのは、誰が聞いても分かる様な間違いをするもので御座います。その様な、不完全なものを人様に聴かせるなど私には出来ない、そう思っておりました。今考えてみれば、不完全な曲を人様に聴かせる事を恥じていたのでは無く、完璧に演奏して見せられない己を恥じていた様に思います。
一方で、私はまた、全力と言うものが分からない人間でした。こんな事を言うのは大変嫌味なことに聞こえるかも知れませんが、私は
つまる所、私は実に中身の無い、何も持たぬツマラナイ人間なのです。自伝を書いたり、後に子に教育をするに向かぬどうしようも無い人間なのだ。ただ在るのは、中途半端に脳に集められた知識とそれに依って生み出された不完全な思想、そして、嫌に強い感受性のみで御座います。私は感受性が恐ろしく強いので御座います。物語を読んでは涙し(私は、学術試験の最中ですら、国語の設問の物語に涙を流す事しばしばで、これには大変辟易しております)、話の中の架空の人物に想いを寄せ、酷く共感するのであります。とりわけ、私は悪役に魅入ってしまう悪癖を持っております。何故悪癖かと言いますと、私は、気に入った登場人物に酷く想いを募らせてしまう為で御座います。そのくせ、その登場人物達はこぞって絶命していくのでたまったもんじゃあ無い。作中のヴィラン達は皆妖しい香りを漂わせ、どこか闇の見え隠れする端正な顔立ちを思わせ、皆儚くもその命を落としていく。美しい。また、彼等が闇へと堕ちていく様が描かれているのも私を惹きつける一因として間違い無いのであります。これについてはまたの機会にお話しさせて頂くとしましょう。この悪癖に依って、私は毎夜毎夜、涙で頬を濡らしております。
少々長く書き過ぎたかも知れません。ここまでお付き合い頂き感謝申し上げます。え?もう時間が無い?いえいえ、それは良くない。嘘はいけません。このツマラナイ人間の書いた文学モドキの様な書きものをここまで読んだのだ、貴方は暇を持て余している。違いない。次は貴方だ。貴方のお話を是非ともお聞かせ頂きたい。さあ、この文面に向けて、貴方の話をして下さいませ。私はここで聴いております。何?お前はここに居ないから聞こえないだろうって?何を仰る。私は文字というものに心を奪われた一人で御座います。ここで、貴方のお話するのをずっと聴いております。だから、どうか聴かせて頂けないだろうか。話が下手だ?構いやしません。何せ私も、この様な形で長文を
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