第101話
「討伐したワイバーンの素材は、その後どうなりましたか?」
「ああ、えーっと…ちょっと事情があってさ、回収したのは心臓と眼球だけなんだ」
柔和な表情のレティスの問いに、神木公平も素直にありのままを答える。
「そちらの素材は、今どこに?」
「確か、心臓はリーラさんが持って帰って、眼球はメイさんに」
「なるほど」
レティスは小さく頷くと、背筋を伸ばして居住まいを正した。
「すみません。コーヘーさんを疑う訳ではありませんが、一度その方たちに確認を取らせて貰っても構いませんか?」
「それは構わないけど。まだ持ってるかは、分からないぞ?」
神木公平のその発言に、レティスは軽く後ろを振り返る。それからカチュアの反応を確認し、再び正面に向き直った。
「既に手放していれば仕方ありませんが、貴重な素材ですからね、おそらくはまだ、持っているのではないかと思われます」
「確かに貴重な素材とは言ってたけど…」
言いながら神木公平は、左横の佐敷瞳子に視線を向ける。するとその意図を察した佐敷瞳子が、若干俯き加減でおずおずと口を開いた。
「メイさんは、多分…大丈夫。でもリーラさんは、薬に調合…してるかもしれない」
「はあ、やっぱり……リーラと言うのは、薬師のリーラの事なのね」
しかし彼女の言葉にいち早い反応を見せたのは、溜め息混じりで右手を頬に添える、困った表情のグレイスであった。
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「え、お母さん、その人と知り合いなんですか⁉︎」
チェルシーから驚いたような顔を向けられ、グレイスはゆっくりと頷く。
「現役時代の同僚なのだけど、今は引退して薬屋を開いてるの」
「それなら話は早い。出来ればその方に連絡を…」
「それが、駄目なのよ」
続いて発せられたレティスの提案を遮って、グレイスが「はぁ」と小さな溜め息を吐いた。
「今は王都に居ないから」
「…と言う事は、今は何処に居られるか、本部長殿はご存知なんですね?」
「ええ、まあ。ちょっと無理を聞いて貰って、今はフィアホルンの方に」
「フィアホルン、最前線…ですか」
最近の魔物活性化の情報は、勿論レティスの耳にも届いている。傭兵団の事情を察して、レティスは納得したように頷いた。
「何とか渋々承諾して貰ったのだけど、代わりに薬草園の管理を任されちゃって、枯らしたら末代までイビリ倒すなんて言うのよ。長命のエルフに言われたら、冗談に聞こえなくて怖いわよねえ」
「ちょ、ちょっと、お母さん! その末代までってのに、私は含まれるですかっ⁉︎」
その時こぼれ出た物騒な発言に、娘のチェルシーが青い顔で声を張り上げる。
「わざわざ確認した訳ではないけれど、普通はそうじゃないかしら?」
「ああああ、最悪ですー。お母さんは壊す事は得意でも、活かす事には全然ですー」
それからこの世の終わりであるかのように、チェルシーは頭を抱えて膝をついた。
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