第85話

「コッチだ、化け物ーーっ!」


 神木公平は声を張り上げると同時に、手近にいた小鬼に殴りかかった。


 壁まで殴り飛ばされた小鬼は、その一撃で、魔核を残して消滅する。


 透かさず神木公平が囲いの一角に突撃すると、鬼神の如き強さで周りの小鬼を次々と粉砕していく。


「何だ、あの強さは…」


 神木公平の圧倒的なまでの強さに、アイゼンは思わず言葉を漏らす。


 そのとき彼らの前にいた大鬼が、神木公平へと向き直って、振り上げていた丸太の棍棒を地面に叩きつけた。


 そのあまりの衝撃に、洞窟全体が揺れたかのような錯覚に陥る。例に漏れずに神木公平も、大鬼の鬼気迫る姿に目を奪われた。


 その直後、いつの間にか神木公平の背後に回り込んでいたもう1体の大鬼が、仲間の小鬼ごと、丸太の棍棒で神木公平を叩き潰した。


 同時に粉微塵になった何かの破片が、洞窟内に飛び散っていく。


「あ…あ…」


 今目の前で、若い生命が失われた。アイゼンの横に立っていた男性騎士が、言葉もなく絶望する。


「…てーな、オイ」


 そのときモウモウと漂う粉塵の中で、ユラリと人影が動いた。次の瞬間、砕けた棍棒を構えた大鬼が、反対側の壁まで吹き飛ばされる。


 少年の放った淡黄色の籠手ガントレットの一撃は、大鬼の姿を呆気なく消滅させた。


 そうして神木公平は、再びコチラにゆっくりと向き直る。


 薄暗い洞窟内に輝く金色の双眸は、禍々しいまでに神秘的な光を放っていた。


「金眼の…羅刹」


 アイゼンは殆ど無意識に、ただそれだけ呟いた。


   ~~~


 レトが騎士団の3人を連れて駆けつけたのは、全てが終わった後の事であった。


「あ、レト。ちょうど良かったよ」


 そのときレトの姿に気付いた神木公平が、何とも呑気な声をあげる。


「魔核が持ち切れなくてさ。怪我人もいるしで困ってたんだ」


「えーっと…そうですか」


 佐敷瞳子から聞かされていたとは言え、それでもレトは困惑の表情を浮かべた。


「隊長っ!」


 騎士たちはアイゼンの姿を確認すると、仲間の元へと駆け寄っていく。


「これを…コーヘーさんがお一人で?」


 神木公平が一箇所に集めた魔核の数は、優に30を超えている。佐敷瞳子の情報通り、2個の中型魔核もあるようだ。


「いや、まさか。隊長さんたちが、半分ほどは倒してたから」


「……そう、ですか」


 神木公平が倒した半分には2体の大鬼も含まれるのだが、そういう認識は全く無いように聞こえる。どうにも納得出来ないが、レトは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。


「レ…ト殿、ご迷惑を…おかけしました」


 そのときアイゼンが、申し訳なさそうな態度でレトのそばに立つ。


「ご無事で何よりです、アイゼン隊長。良ければ後ほど、詳しい話をお聞かせください」


 レトはなごやかな笑顔で微笑むと、そのまま神木公平の方へと振り向いた。


「それではコーヘーさん。本来の任務のために、サッサとここを片付けてしまいましょう」


「そうだな」


 神木公平も笑顔で小さく頷くと、足元の魔核を拾い始めた。

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