第47話

「ほらよザイード、アンタはこっちだろ?」


 メイは身の丈以上もある片刃大剣バスターソードを両手でヒョイと持ち上げると、ザイードの背中に向けて声をかけた。しかし当のザイードは、右手の幅広剣ブロードソードをマジマジと見つめながら沈黙している。


「おい、どーした?」


「あ、いや…」


 再び背中越しに声をかけられ、ザイードはメイの方に振り返った。


「メイどの、せっかく愛しの天使どのが選んでくれた物であるし、少し表で試し振りをしても構わぬだろうか?」


「あ…ああ、構わないが」


 ザイードの真剣な表情に気圧されるように、メイは大きく頷く。


 それから人通りの少ない場所に移ると、ザイードが剣をヒュンヒュンと勢いよく振り回し始めた。そうして次第に、その表情が綻んでいく。


「おおっ、我、神託を得たりっ!」


 そして最後に剣を天高く掲げながら、ザイードは声を張り上げた。


「これ程シックリくる武器は初めてですぞっ!」


 溢れんばかりの笑顔を浮かべると、そばで様子を見ていたメイにググイと詰め寄る。


「メイどの、今日はこの剣を頂こう!」


「そ、そうかい? 毎度どーも」


「であればっ!」


 続いてザイードはグインと身体ごと店の入り口に向き直り、そのまま勢いよく駆け出した。


「天使どのっ!」


「ひっ、ごめん…なさいっ」


 突然店内に駆け込んで来たザイードに、佐敷瞳子は思い切り両肩を掴まれる。全然違う武器を選んで怒らせてしまったのかもしれないと、両目を閉じて身体を強張らせた。


「我に盾を、盾を見繕って下されっ!」


「え…た、盾…?」


 ザイードのその言葉に緊張の糸が途切れたのか、佐敷瞳子はヘナヘナとその場に尻もちをついた。


   ~~~


「よくやったよ、トーコ。あの変態に、剣と盾の他に鎧まで買わせるとはね」


 ザイードが帰ったあとに、メイはホクホク顔で佐敷瞳子の右腕をパンパンと叩いた。


「鎧は…メイさんが、勝手に…」


「いいんだよっ」


 困り顔を見せる佐敷瞳子に、メイは更に満面の笑みを浮かべる。


「お客が満足してくれたんだから、それはトーコの功績さね」


 そうなのだ。鎧に関しては、佐敷瞳子の言葉を騙ったメイによって、半分押し売ったような形なのだ。


 しかしお世話になってるメイにここまで喜んで貰えると、何だかこれで良いような気もしてくる。気が付くと、佐敷瞳子も「フフッ」と優しく微笑んでいた。


 そのとき丁度、おつかいに出ていた神木公平が戻ってきて、佐敷瞳子の笑顔を目撃する。


「ただいま、何か良い事でもあった?」


「トーコが高額商品を3点も販売したもんだから、褒めてたとこさね」


「へー、凄いじゃないか」


「そ、そう…かな」


 神木公平にも真っ直ぐに褒められ、嬉しさのあまり頬が真っ赤に染め上がる。


「ったく、旦那が褒めると素直さね」


 メイに呆れたように突っ込まれ、佐敷瞳子は恥ずかしくなって顔を伏せた。

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