第七章 チェルシー危機一髪!

第46話

「メイどの、居られるかー?」


 神木公平と佐敷瞳子がメイの店で働き始めて一週間が過ぎたころ、図体のデカい男がのそりと現れた。


 ボサボサの茶色の短髪に、少し垂れた目尻、口の周りには無精髭が生えている。そして厚い胸板にはパツパツの革製鎧レザーアーマーを着けていた。


「い、いらっしゃい…ませ」


 ここのところ店番を任されていた佐敷瞳子が、その男のあまりの風体に怯えながらも、精一杯の勇気で声をかける。


「やや、見間違いか…っ! こんな所に愛らしい天使が降臨なされた」


 すると突然、男は野太い声で興奮しながら、ドタドタとレジカウンター越しに詰め寄ってきた。佐敷瞳子は思わず椅子から立ち上がり後退るが、直ぐに壁に突き当たってしまう。


 男はそのままレジカウンターに両手をつくと、佐敷瞳子の足先から頭の天辺まで、舐め回すように全身を見回した。


「おいザイード、その汚らわしい目でトーコを見るんじゃないよ」


 そのとき店の奥からメイが姿を現す。その瞬間、今にも泣き出しそうだった佐敷瞳子が、ホッと安堵の息を吐いた。


「汚らわしい目とは心外な…っ、我はちっこい天使を等しく愛でる紳士ですぞっ!」


「だからそれが汚れてるって言ってんだ」


 堂々と胸を張るザイードを見て、メイは呆れた声で溜め息を吐いた。


「で、今日は一体何の用だい?」


「おお、忘れていたっ」


 ザイードは頭を掻きながら「ガハハ」と笑うと、店内をグルリと見回す。


「救国の英雄も現れたことであるし、いっちょ武器を新調して名を上げようかと」


「新調って…ウチは再生屋だよ。新品が欲しいなら他所へ行っておくれ」


「ご謙遜なさるな。この店の品は新品と見紛う逸品ばかり。下手な新品より信頼出来ますぞっ」


「あー、ホント面倒めんどいなー、コイツ」


 メイはガシガシと頭を掻くと、心底嫌そうな表情で溜め息を吐いた。


「トーコ、何か適当に見繕ってやんな。サッサと用件を済ませてお帰り頂こう」


「え…私?」


「頼むよ」


 メイに両手を合わされ拒めなくなる。佐敷瞳子は困り顔で店内を見回した。


(この人に、一番合う武器…)


 そして佐敷瞳子は、ザイードの大きな身体を見上げながらボソッと呟く。すると視界の左手にある大きな剣にタグが絞り込まれた。


「あの…コレ」


 レジ前から移動し自ら持ち上げようとしたが、ズシリとかなり重い。


「おお、コレですかな?」


 そのとき佐敷瞳子の背後からニュッと肉太な腕が伸び、その剣を片手で持ち上げた。


「や…っ」


 驚いた佐敷瞳子は、思わず身を縮こませて、ザイードから距離をとる。すると逃げた先にいたメイが、佐敷瞳子の背中を支えて受け止めた。


「流石のトーコでも、これはチョイと意地悪が過ぎたかね?」


「え…?」


 メイのその言葉に、佐敷瞳子は意味も分からずキョトンとする。


「試すような事して悪かったね。ザイードは両手持ちの片刃大剣バスターソードを力任せに振り回すだけの脳筋さね」


 そう言ってメイは、佐敷瞳子の背中を優しくポンと叩いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る