第41話

 色々と惜しい気持ちは沢山あるが、そうそう長居もしてられない。


 先ず第一に、ここを寝床としているワイバーンが一匹だけとは限らない。万が一にもつがいがいるとなれば、直ぐにでも次が現れるかもしれない。


 そうで無くても、この血の匂いに釣られて、他の魔獣が姿を現すのも時間の問題である。


 リーラは古来より希少な素材とされている、ワイバーンの「眼球」と「心臓」を素早く回収すると、持参していた瓶の中に収納する。


 それから数本の「クコヨシノ」を土ごと掘り返し、同じく持参した麻袋の中に丁寧に詰め込む。


 その後、佐敷瞳子の案内のもと、数種類の貴重な素材を回収すると、一目散にこの場を退避した。


 我が身可愛さも勿論あるが、この即時撤退の一番の理由は、この場所を戦闘行為で荒らしたくない…と云う彼女の想いからであった。


 そうして馬車がジェイエに着いた頃には、陽は既に沈んでしまっていた。


 夜型の魔獣は獰猛な種類が多いとかで、今日はこの農村で一泊の予定である。


 元々観光地でもないここの宿泊施設は、食堂の二階の大部屋に各自布団を敷くだけという、簡素な物であった。


 他にも一組の利用客がいたが、そこそこ広い部屋なので、ある程度の距離も確保出来ている。


 貴重品は有料のロッカーに預けることが出来るが、大きな荷物は基本的には自己責任という事になっていた。


 ただまあ、宿泊には身分証の提示が必要であり、大きな問題が起きることは余りないらしい。


 その後、王都アインベルへと戻ってきたのは、翌日の昼頃を過ぎてからであった。


   ~~~


「おいおいコイツは、ワイバーンの目ん玉じゃねーかよっ!」


 差し出された瓶を確認して、メイが焦ったような声をあげた。


 今回持ち帰った素材は、その殆どが薬の素材になるとかで、リーラは買取屋に何も売却しなかった。


 そしてその中で、魔法道具の一件とは別に、報酬として二人に渡されたのがワイバーンの眼球である。


「何があった?」


「メイ、その事でこのあと、コーヘーを教会に連れて行きたいのだけど良いアルか?」


 リーラの真剣な眼差しに、メイはハッとして神木公平へと目線を向けた。


「まさか…コーヘーがやったのかい?」


「はい、まあ、俺がやったっつーか、瞳子のおかげっつーか…」


 すると神木公平は、頭の後ろに手を当てながら何とも曖昧な表情を作る。それを見てメイは、口の端っこに興味深そうな笑みを浮かべた。


「よし、私も人伝てに聞いただけで、気にはなってたんだ。今から店を畳むから手伝っておくれ」


「え…?」


 神木公平が意味も分からず呆けた顔をする。


「察しが悪いね、私もついてくって言ってんだ。さあさあサッサと身体を動かすっ!」


「は、はい!」


 メイがパンパンと両手を打ち鳴らすと、神木公平と佐敷瞳子は慌てて閉店作業に取り掛かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る