第35話 番外編 1

 ユミルはミサの指示に従って、騎士団本部内に何もない空き部屋をひとつ用意した。


 入っていた荷物を運び出し、ある程度の清掃が終わった頃にタイミングよくミサが現れる。


「あ、使徒さま、どうでしょうか? とりあえず部屋の方を用意してみたのですが」


「充分すぎるくらいです。どうもありがとうございます」


 ミサは軽くお辞儀をして、ニッコリ微笑んだ。


「それでは運び込んでいきますね」


「あ、お手伝い致します。何処に取りに行けば良いですか?」


 ユミルが慌てたように声をあげた。場合によっては人員を出す準備も出来ている。


「必要ありません。直ぐに済みます」


 そう言ってミサは、聖杖の青水晶を用意された陳列台の方に向けた。するとその向けた先に、数個の武具が音もなく出現する。


 そのまま聖杖を横にスライドさせていくと、それに伴って台の上に次々と武具が姿を現した。


 ちょうどその時、白石和真を先頭に到着した勇者組3人が、ミサの手際を目の当たりにする。


「おお、スッゲ」


「ミサさん凄~い。ホントの魔法使いみたーい」


 白石和真と鳴神ひかりの感嘆の声を背に、ミサの作業はどんどんと進んでいく。


「確かに凄いな」


 咲森勇人は両腕を組んで入り口の壁に背を預けながら、右手の中指で眼鏡をクイッと持ち上げた。


   ~~~


 ユミルが合図をすると、3人の男性女性が部屋に入ってきて、彼女の後ろに並んで控えた。


「それでは、鑑定士の彼らが内容を確認していきますので、もう暫くお待ち下さい」


「いや、必要ない」


 咲森勇人は壁から背中を離すと、無造作に部屋を縦断していく。


「ユート…さま?」


 ユミルが困惑の視線をその背中に向けたとき、少年の身体から銀色の炎が揺らめき立った。


 同時にまるで呼応するように、部屋の一番奥にある剣から同じく銀色の炎が立ちのぼり、咲森勇人のオーラと1本に繋がる。


「俺は、これでいい」


 呼び合うように咲森勇人が白銀の剣を手にすると、急速にその現象が収束していく。


「あの剣は何っ⁉︎」


 ユミルが驚いたように、後ろに控える鑑定士たちに声をかけた。


「鑑定…出来ません」


「何を、言って…」


 鑑定士の返答に、思わず声を詰まらせる。


「使徒さま、あの剣は一体何処で…?」


「ああ、思い出しました」


 ユミルからの問い掛けに、ミサはにこやかな笑顔で両手を叩いた。


「一番初めに魔境となった、エルフの霊峰で見つけた物です」


「あの霊峰で……あっ⁉︎」


 そのときユミルが何かを思い出したように、口元に手を当て大きな声をあげた。


「太陽剣シャムシェール! ただの言い伝えだとばかり…まさか本当に実在するなんて」


 震える声でユミルがポツリと呟く。


 その瞳に映る咲森勇人の神々しい姿に、彼女は畏敬の念を抱き始めていた。

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