第23話

 メイはバンデルから再提示された金額を無言で見つめると、リュックから今度は麻袋を取り出した。


「これも付けるから、ポンと景気良くキリのいい所まで上乗せしてくれよ」


 バンデルは若干の警戒心を抱きながら、置かれた麻袋を覗き込む。中には鉄牙や毛針が入っていた。


「キリ、というと……これで?」


 端末を叩いてバンデルが金額を提示する。するとメイが、すううっと息を吸い込み始めた。


「わ、分かりました、分かりましたっ」


 改めて提示された金額に、メイはやっと頷いた。


「よし売った。さすが漢気の塊はひと味違うな」


 画面の金額を確認しながら、メイが自分の市民証を端末下部にあるカード差込み口に差し込む。すると端末からピコンと音が鳴り、嬉しそうに市民証を抜き取った。


「は、はは…ご満足いただけて何よりです」


 力ない笑顔を残して、バンデルがトボトボと去っていく。


 何だか少し不憫に思い、神木公平はその背中を申し訳なさそうに見送った。


 しかし突然その彼が、何かを見つけたように勢いよく駆け出す。その行き先には、ちょうど裏門から帰ってきた、別の馬車の姿が見えた。


 ……思ったより元気だな。


 神木公平は商魂逞しいその姿に、思わず苦笑いを浮かべた。


   ~~~


「はいよ、今日の報酬だ」


 メイが財布から1万リルグ紙幣(1リルグ1円、物価は日本並み)を2枚取り出すと、神木公平と佐敷瞳子に差し出した。


「えっ…これ現金? じゃあ、さっきのは?」


 神木公平はメイからお金を受け取ると、マジマジと見つめながら驚いた声をあげる。


「あー、さっきのは仮想通貨だ」


 メイは市民証を取り出すと、二人に見えるように差し出した。マイナンバーカードのように、顔写真も併せて表示されている。


「こういう屋外だと、その方が便利がいいからな」


「確かに…」


 最近日本でも、キャッシュレス化が騒がれている。詳しくは分からないが、コレも似たような制度なのだろう。


「あ…あのっ」


 そのとき佐敷瞳子が頭を下げながら、勢いよくお金をメイに差し出した。


「このお金で…公平くんの籠手に、魔核を取り付けて…ください」


 佐敷瞳子がギュッと目を閉じて懇願する。


「アンタ、出来た嫁だねー」


 その姿を見て、メイが感心したような声を出した。


「…は?」

「…へ⁉︎」


 予想外の返答に、二人揃っておかしな声が口から飛び出す。


「私のハンマーを見てから、ずっとそれを考えてたんだろ?」


「う…うん」


 メイに真っ直ぐに見つめられ、佐敷瞳子は耳まで真っ赤に染めながらゆっくりと顔を伏せた。


「瞳子、お前…」


 神木公平は言葉に詰まって彼女の横顔を見つめる。


「ただなー、感応金属オリハルコンの精製技術は、現代には受け継がれてないんだよ」


 そう言ってメイは、頭の後ろをポリポリと掻いた。

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