第24話

「ただなー、感応金属オリハルコンの精製技術は、現代には受け継がれてないんだよ」


「え…っと?」


 メイの言葉の意図が分からず、佐敷瞳子が不思議そうな顔で小首を傾げた。


「つまりは、解体バラす事が出来ないって訳だ」


 どうやら魔核を取り付ける事は出来ないという事らしい。それを知って佐敷瞳子は、肩を落としてションボリする。


「ところでその魔法道具ってのは、俺や瞳子にも扱える物なんですか?」


 落ち込む佐敷瞳子の肩を優しくポンと叩いて、神木公平がメイの方に顔を向けた。


「例え魔法の適性がなくても、魔力は誰にでもあるからねー」


 メイはリュックからハンマーを取り外すと、テニスのラケットのようにクルクルともてあそぶ。


「多少の相性はあるにしても、基本的には誰でも問題なく使える筈だよ」


「そうですか」


 少し安心したように、神木公平が軽く微笑んだ。


「欲しいのかい?」


「出来れば…」


「素直だね」


 その返答に満足したのか、メイがハンマーを右肩に担いでニッと笑う。


「明日の夕方で良ければ、私がオススメの店に案内してやるよ」


「ホント…ですかっ?」


 メイの発言に、佐敷瞳子が勢いよく反応する。


「ああ、旦那のために、良いのを見つけてやんな」


 ニヤニヤと自分を見てくるメイの視線に気が付いて、佐敷瞳子は恥ずかしくなって顔を伏せた。


   ~~~


 その日の夜。


 神木公平と佐敷瞳子は、自室で二人並んで立ち尽くしていた。


 晩ご飯のときに、神木公平がそれとなく相談してみたのだが…


「夫婦のくせに、何を恥ずかしがってんだい!」


 と、何度訂正しても取り付く島もない。


 仕方がない。


 神木公平は意を決した。


「瞳子はベッド、俺はソファー、オーケー?」


 突然大きな声を出しながら、パッパとそれぞれを指し示す。


 佐敷瞳子はやや見上げるように神木公平に顔を向けると、何度もコクコクと頷いた。


 そして今に至る。


 慣れない環境に晒されて疲れていたのだろう。いつのまにか神木公平から、スースーと規則正しく寝息が聞こえ始めた。


 暫くして、佐敷瞳子がムクリと上半身を起こす。


 眠れる訳がない…


 そっとベッドから下りると、神木公平のそばに座り込んだ。目の前の寝顔を、愛おしそうに真っ直ぐに見つめる。


 それから自分の側に投げ出されている左腕に、ちょこんと頭を乗せてみた。何だかスゴく心地良い。


 不意にウトウトと睡魔が襲いかかる。


 イケナイ、ベッドに戻らないと…


 佐敷瞳子は残念そうに、そう自分に言い聞かせた。


   ~~~


 翌朝…


 神木公平が目を覚ますと、顔のすぐ横に黒いケムクジャラの物体があることに気が付いた。


 何事かと身体を起こそうとするが、左腕に抵抗を感じて動かせない。


 やがて意識がハッキリしてくると、それがルームメイトの少女であると確信した。


「と、瞳子っ⁉︎」


 反動で、左腕が大きく動く。


「ふえ…?」


 その刺激で佐敷瞳子が目を覚ました。それから寝ぼけまなこで身体を起こす。


「あ、わ、わ…私」


 徐々に状況を理解したのか、みるみる顔が真っ赤に上気していく。


 それから観念したかのように顔を伏せると、か細い声で言葉を発した。


「おはよう…ございます」


「うん…おはよう」


 神木公平もそれ以外に、発する言葉が見つからなかった。

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