古き魔窟の物語をっ!

壱兄さん

四英雄・聖女編

第1話、プロローグ・魔王と大英雄

注意点

 ・なんにも考えずに書きますので、古き魔王の物語をっ! を星三レベルで楽しんでいる人用です。

 ・合間に書くので完全に不定期更新です。

 




 〜・〜・〜・〜・〜・〜

 



 差し押さえとなり、今や誰も寄り付かないワイン貯蔵庫。


 ここが“魔王教”の集会場所と聞き、比較的小柄な影が二つやって来た。


「……ここですな」

「…………」


 大陸に突如として生まれた強大な勢力【クロノス】。


 王国の美麗な乙女達を狙い、大破壊も躊躇わないとされる魔王を筆頭に強力な配下達がカース森林へと居を構えた。


 やがて大衆からは、その強さや邪悪さを信奉する者等が現れる。


「……ラコンザは周囲を一通り調べてもらえる?」

「ふむ、承りました。必要とは思えませんが、終え次第すぐにシルク様に追随します故」


 稽古を付けて欲しいと訪ねて来てより共に行動している【武王】ラコンザへ指示し、自分は建物へと向かう。


 老いた人族とは思えず、実力も飛躍的に上がっている。他の誰でもなく彼ならば失態や身の心配は要らない。


「…………」


 家屋は倒壊寸前。しかし地下にある貯蔵庫はひんやりとした空気が心地良く、今も十分に役割を果たせそうに思える。


 板で厳重に出入り口を封じられ、鼠や蜘蛛くらいしかいないだろうそこに、僅かに漏れる異音があった。


 響く耳障りのいい高音。そして、水滴の滴るような音。


 貯蔵庫よりも更に地下から漏れているようだ。反響の仕方からもかなり広い空間であることが分かる。


 物音を立てずに貯蔵庫窓枠の金具を斬り裂き、外して侵入。


 無数に残った樽の棚を通り過ぎる。


 風読みの能力を使い、漏れ出る隙間風から地下への入り口を即座に発見した。


「…………」


 荒れた足跡。人数は……二十……いや、中にいるのは三十人を超えるだろう。


 巧妙に隠されていた地下への入り口。棚下の開け放たれたこの隠し扉から焦りながら突入したようだ。


 吹き出す一際冷たい地下からの風を受けながら踏み込む。


 洞窟かのような穴。曲がりくねる階段を降り、やがて灯りが。


「…………」


 まるで教会のような空間であった。


 長椅子など無駄なものはない。しかし二階からも礼拝できるよう回廊が丁寧に掘られている。


 そこから……ワインレッドの液体が滴っていた。


 二階からだけではない。回廊の両端から滴る生暖かいそれだけでなく、そこら中に転がる屍から流れ出る血で礼拝堂らしき場所は血で染まっていた。


 視線を屍共の向こう、唯一佇む黒髪・・の男の背へ向ける。


 禍々しい魔神を象ったような壁に掘られた巨大な彫刻の下で、足元の一風変わった死体を見下ろしていた。


 数多の死体と異なり、噂の司祭らしき者と上級騎士二人……そして、聖女として有名な老婆。


 複数の子供を守るように覆い被さる聖女も、血に塗れて息絶えていた。


「…………」


 胸を刺す失意の痛みに、目蓋を閉じる。


 次に開いて覗いた眼には、失意が転じて戦意の鋭さを秘める。


「……私は魔王教を調べに来たんだけど……」


 長く長く、世代を超えてとても長い時を生きる自分だが、公国の聖女とは三度の面識がある。


 人格者であるとは言えないかもしれない。しかし特定の病魔を癒す聖女として国を問わず治療に尽力していた。


 ……何か、助けになってあげたかった……。


「……君が、最近有名な【黒の魔王】かな?」


 翡翠色に迸る魔力で片手剣を造り出し、殺意を込めて睨み付ける。


 神聖さすら感じる殺気に大気が鎮まり、濃く練り上げられた魔力に周囲がちりちりと焼ける。


 やがて地に伏す屍の衣類が翡翠の炎を宿し始めるも、今回ばかりはこれくらいは必要だろう。


 容貌は平凡な黒髪の人族だが、刀から感じる剣気と……何より佇まいから感じる肉体能力の異常さ。


 魔力の程を感じられないが噂は間違いではないと悟った。


「どちらにしろ、君を捕縛して事情を訊こうか」


 フードを脱ぎ、新緑色の長髪を軽く首を振って背後へ流す。


 伝説のエルフなどと呼ばれ、持て囃されるのは居心地の良いものではないが、この姿を見せれば大人しくなる者も多い。


「…………」


 聖女へと駆け寄ろうとした様子で倒れ伏す騎士に、無情に突き立てていた黒い刀を引き抜き、僅かに身体を傾けてこちらを視認する男。


 武装した死体の山を築いた後にも関わらず、傷はおろか衣服にさえも切り目一つない。


 混沌を司るが如き魔神像とそれを崇め祭るように焚かれたキャンドルを背景に、黒の瞳がシルクを捉えた。


「…………」

「…………」

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