ありがとう

水妃

第1話 ありがとう

僕は徹夜で書き上げたポスターの絵を編集部にメールで送信した。


今回初めて自分がデザインしたキャラクターが採用された。


疲れた僕は深呼吸をして、

ふと、小学生の時に貰った優勝トロフィーに目を向けた。


それから僕は小学6年生のある夏の日の出来事を思い出した。


 小学生時代、僕には憧れの同級生がいた。

名前はショウ君。

イケメンで、スポーツも勉強も出来てクラスのみんなも憧れるスターだった。


僕はその真逆に位置するような存在で勉強も出来ず、

スポーツも出来ず、

クラスでもあまり注目されるようなことも無かった。


ある意味彼を引き立てる為の脇役だったのかも知れないなと自分では考えていた。


例えば球技大会をやってもいつも彼はクラスの中心で

他のクラスの生徒からも一目置かれる存在で

僕は彼をとても羨ましく思っていた。


彼のようになりたかった。


彼のようにみんなに注目されるようなそんな存在にクラス、いや、学校の中でなってみたかった。


でも、小学生の僕にはただ思うだけで何か出来る事なんてなかった。


僕は友達もいなかったから

いつも教室に残って独り絵を描いていた。


教室の窓からの風景や、教室の金魚、先生の顔、

そして、頭の中で浮かんだイメージ。

色々な物を描いた。


絵を描いている時だけ無心になれて雑念が消えて心が洗われた。


放課後の教室は誰もいなくて淋しさもあったけれど、

でもどこか居心地も良かった。


 毎年恒例の学園祭の時期が近づき、皆が準備にバタバタし始めた。


僕のいつもの役割はハサミで画用紙を切り貼りしてひまわり等の花を作ったりするのが定番の役割だった。


僕の学校では全てのクラスがテーマを決めて

絵などの作品を披露するのが伝統だった。


僕は誰かが考えた物を言われた通りやる。

その年は6年生だったからそれをやるのも最後の年のはずだった。


彼にあの言葉を言われるまでは。


ある日、僕はまたいつも通り放課後に絵を描いていた。


それは空の絵だった。


空もよく見ると青一色では無い。

濃い青、水色、白、雲の形だって様々あってとても奥が深い。


丁度その時間は紫や赤が混ざり合って綺麗な夕焼けになっていた。


空も常に動いていて止まらず移り変わりながら僕達と同じように生きている。

その止まる事のない動きを僕はあえて止め、絵として描かせてもらっている。


そんな時、後ろから声が聞こえてきた。


「ミツル?」


「あっ、ショウ君・・・」


「こんな時間にミツルは何しているの?」


不思議そうにショウ君は僕の目を真っすぐ見つめながら言った。


「空が綺麗だから夕焼けを描いているよ。ショウ君は?」


「俺はバスケの練習していた。

そう言えば、ミツルは昔から絵が上手だったよな。

今回の絵はどんな絵なの?見せてよ。」


「そんな見せられるようなものじゃないよ。」

僕は絵を隠そうとしながら言った。


「こ、これ、凄いじゃん。めっちゃ上手じゃん!

俺さ、絵が苦手だからこんな風に描けるの羨ましいよ。

沢山練習してるけど、絵だけ上手くいかないんだよな。」


「ショウ君に苦手な事なんてあるの?」


「何言ってるんだよ。あるよ。人間だもん。得意な事だらけな訳がないだろうよ。」


「そう、そうだよね。

でもショウ君はスポーツも勉強も何でも出来るからさ・・・」


「それは誤解だよ。

誰にでも得意不得意はあるでしょ!

人はそれぞれ個性があって、それは良い悪いでは無く、

お互いが助け合って生きていく為にあると思うんだよね。


ミツルの絵が上手いのだって俺には無い力。


そうやってお互いが得意な事を活かして

助け合って世の中成り立っているんじゃないかなって思うよ。


それと、学園祭のテーマの絵、今年はミツルが描いたらどうだろう?

これだけ上手だったら、全校の中で優勝だと俺は思うよ!

みんなには俺から話してみるから考えてみてよ!」


「う、うん」


僕はショウ君にも苦手な事がある事にびっくりした。

それと僕の絵を憧れのショウ君に褒められた事がとても嬉しかった。


僕は考えに考え抜いた結果、

夕焼けの絵をクラスのテーマとして描いた。


彼に褒められた夕焼けの絵を全力で描いたんだ。



 あれから20年が経ち、こうしてデザイナーの仕事をしているのも

僕が絵を描く事が好きというのもあるが、

何よりも憧れのショウ君にあのような言葉を言ってもらえた事が大きい。


あの日の出来事で誰にでも得意な事、不得意な事はあることを知り、

学園祭で自分自身の絵でみんなに貢献出来て

自分がそこにいる意味を初めて知る事が出来た。


自信を持てた。


僕は彼より幼くて彼の事を片側だけでしか見れていなかったけれど、

彼は僕を、僕があの日の空を見るようにしっかりと見てくれた。


僕は君に出会えて本当に良かった。


僕の人生に彩りを与えてくれた君に。

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