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惑星の中心都市部【フォレスト】から遠く離れたある施設内。 


   〔立ち尽くす男の姿が映し出される〕



いぶかしげに孵化人間の往来を見ている男は、ケージから出た哺乳類人間である。

管理者から与えられた名を『ディー』という。


ディーは物心ついた頃からケージの中に住んでいた。所謂いわゆる家族という概念のないケージ内。皆与えられた名と定期的に配給される食糧を頼りに生きていた。娯楽もあり、インターネット以外は自由に楽しむ事ができた。

ケージの中は、一般的な街の風景を切り取って、そのままをドーム型の施設に当てめた様な造りだ。そこだけ見れば、普通の街の中となんら変わらない。中の哺乳類人間は、一見いっけん充実した日常を送っているようにうかがえる。

ケージ内は通貨制度が当たり前のように浸透しており、皆食事は十分に与えられ、書籍や映画鑑賞、スポーツやギャンブルに熱を入れる者もいて、何ら不自由のない世界だ。


それなのに、哺乳類人間の中にはケージの区域外へ出ようとする者がいた。

外の世界に何があるのか、興味を持ち、抑えられないその衝動はやがて行動へと変わり、長い間様々な事を試みてきた。

哺乳類人間にとって極自然な感情である好奇心。自然と真逆にあるこの奇抜な世界においては、当たり前にある好奇心は命とりであった。








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