らすと
「どういうつもりですか? 魔王さん」
サングラスを外し、冷めた目で勇者が
「どういうつもり、じゃないですよ! 仲間である魔法使いさんや女神エアリースさんにまで冷たくあたる必要はないじゃないですか! いつものどんな方にも優しく接する勇者さんはどこにいったんですか!」
魔王の熱を帯びた心の叫びにも似た声を勇者が黙って聞く。そして、
「なるほど。魔王さん。そういうことですか」と一人何かに納得した様子を見せる。
「え?」
「ダークヒーロー、ですよね?」
勇者の言葉に魔王の身体が一瞬ビクンと跳ねる。
「な、なにを言って――」
「そういえば最近の魔王さんは女性人気が凄いですよね? 『真面目で明るく誰にでも優しい』という一本調子な僕と違って、『冷酷で
淡々と、死んだ目でそう
「分かります? 『アプリの事前登録者数の目標達成で勇者が貰える』ってCM打たれた時の僕の気持ちが。ああいう『登録者数達成系』のモノは
淡々と、それでいて、最後らへんは割と感情的に、己の想いを
「それでも最初は僕も頑張りましたよ。プレイヤーさんが寝ている間に五時間ぶっ続けオートプレイでひたすらメンバー全員の装備集めとかもやりましたよ! 仕方ないですよね? ランクの低いキャラは最初のうちはなかなか戦闘で活躍できないし、逆に魔王さんみたいに最高ランクのキャラは進化素材が集まりにくくて中盤まで育て
そう言うと勇者は地面に膝をついた。
「勇者さん……」
すっかりキャラが
「おーい。皆してこんなとこに集まってどうしたのー?」
身なりの良い中年男性が召喚の間を訪ねてきた。
「あ、お疲れ様です。プロデューサーさん」
魔王が一礼したのを皮切りに、悲しみにくれる勇者以外の全員が、各々にプロデューサーに向かって
「勇者くん、どうしたの? 何かあった?」
訊ねるプロデューサーに、放心状態の勇者に変わって魔王が答える。
「プロデューサーさん。実は――」
「なるほど。そういうことだったのか。だったら丁度良かった」
魔王から事情を聞いたプロデューサーはにこやかにそう言った。魔王が
「丁度良い、というのはどういうことですか?」
「実はね、このゲームに対する苦情や抗議が
「大型アップデートですか?」
魔法使いの言葉にプロデューサーが頷く。
「うん。要望の中で声の多かった『ガチャの排出率』や『キャラごとのコスチュームの見直し』、それに『☆5勇者の実装』。このあたりを目玉に近日中に実施予定なんだよ」
「僕、☆5になるんですか?」
プロデューサーの言葉にそれまで項垂れていた勇者が顔を上げる。
「『もっと主人公を活躍させろ』という要望が相当数届いていたからねえ。本当は1周年の目玉にしたかったんだけど、これだけ苦情が来るとそうも言ってられないからねえ」
プロデューサーの言葉に、それまで
「良かったですね。勇者さん」
「魔王さん……」
「あ、あと新コスチュームも追加になるからね」
「新コスチューム?」
勇者が訊ねる。
「勇者くん昔なにかのインタビューで言ってたよねえ? 『子供の頃の夢はサッカー選手だった』って」
プロデューサーの言葉に勇者がキョトンとした顔になる。
「言いましたけど。それがなにか――」
勇者の目が見開かれる。
「プロデューサーさん。まさか、新コスチュームって……」
「勇者くんには『サッカー選手』コスを用意しようと思っているんだよ」
「う、うおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーー!」
勇者が
「ゆ、勇者のコスチュームも良いですけど、私のコスチュームも過激じゃ無いものに変更してください!」
魔法使いが横から割って入ると、プロデューサーがにこやかに微笑む。
「心配しなくても『ブレイブワーク』では過激なコスチュームは用意しないよ。それより、魔法使いちゃんは前回女性キャラ限定の『俺の嫁グランプリ』で優勝候補のお母さんさんと女騎士ちゃんを抑えて優勝したんだから『純白のウェディングドレス』コスを用意しようと思っているんだけど。どう?」
プロデューサーの申し出にさきほどの勇者同様に魔法使いの目が輝く。
「え、着たい着たい! 着たいです! ウェディングドレスなんて超憧れじゃないですか!」
「そ、そんなに喜んでくれるならこちらも用意しがいがあるよ」
魔法使いのはしゃぎっぷりに、プロデューサーが若干引きつった笑みを浮かべる。
「良かったですね。魔法使いさん」
「うん! ありがとう魔王さん!」
「あと、魔王さんも男性キャラ限定の『私の嫁グランプリ』で断トツで優勝したんだから『純白のモーニングコート』コスを用意しようと思ってるんだけど」
「え? 男性キャラなのに『私の嫁』なんですか? というかそんなグランプリありましたっけ?」
「まあまあ、魔王さん。そんなこと気にしない気にしない」
「そうよ。
と浮かれた勇者と魔法使いが声を掛ける。つい先程まで己の呪われた運命やら何やらを
「ちなみに戦士くんや遊び人くん、
そう言ってプロデューサーは召喚の間を去って行った。
「僕、あのプロデューサーに一生付いていきます!」
「私も!」
「俺も!」
「私もです!」
「ワシもじゃ!」
すっかり心酔した皆が、口々にプロデューサーを
「『私の嫁グランプリ』なんてあったかな?」
ゲームアプリ版『ブレイブワーク』の舞台を去りながら、業界内で『
今回のように露呈した様々な問題点を解決させる必要に迫られた場合、その方法として現場の人間のモチベーションアップを図り、馬車馬のように働かせることが大事になる。たかがコスチュームやらランクアップ
「あいつら全員チョロいな」
勇者たちの戦いは続く!
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