デスゲームが成立しませんでした

ネルシア

デスゲームが成立しませんでした

目が覚める。

見覚えのない部屋。

何にもなく、何十年も使われていないような廃墟。

だが、扉1枚を除いて窓もなく、机も椅子もない。

部屋の中央にポツンとこのご時世にラジカセがあるだけ。


「再生して?♡」


と書かれてあるが、気味悪くて再生する手が伸びない。


高い所にある天井の蛍光灯は割れていたりついていないものがほとんど。

光源は無事についている蛍光灯のみ。

うす暗い。

だが、それでも部屋中に写真が吊るされているのは把握できる。

その写真は私がパパラッチして高く売り飛ばした写真たちだ。


パニックになり、逃げようとし、扉のドアノブをいじる。

何かが作動したように、ラジオカセットが再生される。

同時に今まで気づかなかったが、ドアの上のタイマーも減っていく。


「やぁ、加瀬みのり。」


知らない可愛い系の女の子の声が響く。

そのミスマッチさが無気味さを加速させる。


「貴女は他人の人生を食い物にしてきた。

 しかもそれを反省せず、パチンコやギャンブルに費やした。

 パートナーがいたのにも関わらず、だ。

 あなたはどこまで差し出せるかな?

 ぶらさがっている写真の紐を引っ張れば、鍵が降ってくるかもしれない。

 でも?でもでもでもでもでも?

 時間が過ぎると正解以外の天井に取り付けたあらゆるものが落ちてきて死ぬから

 気を付けてね!!」


慌ててぶら下げられた写真の1枚を引っ張る。


落ちてきたのはゴキブリが大量に入った瓶。

それを受け止める間もなく、無残にゴキブリがばら撒かれる。


「いや!!!!いや!!!!!!!!」


どこを見てもゴキブリ。

服にもゴキブリ。


ただただパニックになる。

落ち着く暇もない。

時間だけが無残に過ぎていく。


やっと落ち着きを取り戻したところで残りの時間は5分もなかった。


紐付き写真はまだ何十枚もある。


深呼吸をして、1枚を引っ張る。

何か重い物が落ちてくる気配がして、下がる。


ガァン!!!!!


耳をつんざく音で落ちてきたのは鉄骨だった。


「もういやぁぁぁ・・・。」


泣く泣くもう1つ引く。


催涙弾が上から降ってきた。

目に染みてろくに開けやしていられない。


「時間だよ!!時間だよ!!」


ふざけたアニメ声でラジカセが鳴り響く。


「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


正解以外の全てのものが降り注いでくる。

電源が付いたチェーンソー。

ナイフ。

よくわからないガスが入っている瓶。

毒蜘蛛。


その1つ1つが私を侵す。

毒に、傷で息ができなくなり、視界が真っ黒になる。



「あーあ、終わっちゃった。

 今回も外れだなぁ・・・。」


取り付けた高性能防犯カメラからゲームの現場を見ていた犯人がつまらなさそうに声を出す。


「今回は生き延びてくれるかなぁって思ったのになぁ・・・。」


わざとらしく椅子を揺らし、不満を表現する。


「ま、いっか!!次々!!」


ケロリと気持ちを直すと、また新たな獲物を狙って街を歩く。

あの子かなぁ、あの人かなぁ。

学生、社会人は問わない。

ただ、その時の気分でしかない。

今回はたまたま誘拐した人が悪いことをしていたため、それらしくしただけだ。


1人の女性に目を止める。

スマホ画面を見て落胆するその姿。

深夜なのに似合わないピシッとしたスーツを着た女性。


「アハ!!あの人にしよ!!」


嬉々として1時停止していた車に乗り込み、その人が歩く進行方向に車を止めて、来るのを待つ。

通り過ぎたのを見計らって後ろから追いかける。

未だにスマホの画面を注視しながら後ろから近づく私には気付かない。


「はい、いただき。」


首に鎮静剤を打ち込み、足早に逃げる。

意識を失うまで遠目で観察する。


「それじゃぁ、運びますかね。」


うんしょうんしょと車の中に運び込み、ゲームの舞台へ連れていく。

わくわくしながらその人が目を覚めるのを待つ。

その人は特別悪いことはしていなかった。

とりあえずどうなるか見てみよう。


「あれ・・・ここは・・・。」


その人が目を覚ます。


再生して?♡と書かれたラジカセを見て、全てを把握したようだ。

ってかはやくない?


「もう死ぬんだ。」


いやいやいや、諦めないでよ。

泣いてよ。

わめいてよ。


「まぁ、別に死にたかったしなぁ・・・。」


我慢できず、緊急用のマイクでゲーム場に話しかける。


「ゲームやってよ!!」


「うお、びっくりした。」


「なんでそんなに生きたくないのよ!!!!」


「あんただいぶかわいい声してるのね。

 最後にこんな声聞けるなんて思わなかったわ。

 ありがとう。」


イライラする。

なんで死ぬのが前提なのよ!!


「ふざけないでよ!!

 あがけよ!!

 泣き叫べよ!!!!!!」


「いや、そんな希望のある人生歩んでないし・・・。」


もう無理。

全ての仕掛けを切り、ゲーム部屋へと入る。


「え、そんな可愛いの?タイプだわ。」


そんな歯の抜けたセリフを無視して、壁際に追い込み、壁ドンする。


「なんでそんなに生きたくないわけ?」


「え、むしろ生きたい人って存在するの?

 ほら、見てよ、この通知の量。

 仕事やってるか?っていう上司からのメール。

 何をどんなにやってもダメだし、サービス残業、持ち帰り仕事。

 趣味もないし、恋愛もうまくいったことはないし、そんな人生だからね・・・。」


「・・・あーほんとにもう!!」


そいつの唇を奪う。

少しでも生きたいと思わせ、ゲームを完遂させたい。


が、思いは裏腹に。


「最後の最後に美女からのキスかぁ・・・。

 これも悪くない。

 よし、殺せ。」


その眼には相変わらず生気はない。


「もう疲れた・・・。

 もう帰って・・・。」


 ゲーム部屋の扉を開け、帰るように促す。

 だが、歩みはない。


「あのさぁ・・・。」


「いや、こんな可愛い子目の前にして帰るなんて・・・。」


「・・・は?」


「え、いや、言葉の通りだけど。私レズだし。」


言葉が出ない。

開いた口が塞がらない。

唖然。


「・・・なら私のデスゲーム手伝う?」


「いいの!?!?」


躊躇ねぇなこいつ・・・。


「その代わり、絶対私から離れないでよね。

 離れたら殺すから。」


「はーい♡」


その後も幸せなデスゲーム生活を続けましたとさ。


FIN.

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