10 人間証明

 トキコは子供特有の、難しい事分かんないから素通りしよう、という顔をして、緩慢に日傘を振った。


 足元の、コンクリートの境目から芽を出す雑草がさわりと揺らいだ。


「まあ何でもいいけど。それよりさ、あのさあ、人間渋滞の話聞いてー」


「人間渋滞?」


 突然話題が変わったが、これはいつもの事。


「全校朝会行く時にねえ、人が詰まるの。ボクさあれさ、一番先頭の人が早足でもなると思うんだよねえ」


「全校朝会?」


「うん」


「毎回、人間渋滞になんの?」


「うん、毎月ね最初の週に全校朝会あるからさ。詰まるんだよね~不毛だよね~」


 渋滞している時間が不毛であり、かつ全校朝会も不毛なのだろう。


「それは、息が詰まるな」


 タイヨウは我ながらまったく面白味に欠ける返答だ。


「でしょ。ボク人間渋滞の時が一番安心する。人間渋滞を我慢できる事が、ボクは人間ですって証明する踏絵ふみえみたいなものだから、不毛だ。


 ――ボクの妹だったら多分、並んでる人の頭を踏みつけて逆走すると思う。いじめっ子も優等生も仲のいい友達も平等に踏みつけながら笑うと思う」





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