4 親 その2
まるで暴言か暴力を繰り返す横暴息子のような扱われ方をされ始めたのは、いつからだったろう。
父親が浮気して、借金をこしらえてまで浮気相手に貢いだ事が発覚したあたりだったか。
それまで母親にひた隠しにしていた癖にバレた途端開き直った父親が、母親に浮気相手とのデートの送り迎えをさせていたあたりだったか。
そんな父親に冷め切った母親がタイヨウに愚痴を聞かせまくっていたあたりだったか。
母親が何故かタイヨウに執着して、息子の周囲の女子を排除し始めたあたりだったか。
中学の時、彼女が出来た。幼稚園の頃からお互い顔を知っている幼馴染だった。
最初は散歩みたいなデートをして、別れ際ごく自然に触れるだけの口づけをした。
二日くらい経って、母親が嫌悪感を滲ませて訊いてきた。
「あんた、キスしてたってほんと? タナベさんが見たって言ってたけど……」
母親はご近所付き合いネットワークから情報をキャッチしたらしかった。自分が犯罪者になったのかと思うくらい後ろめたかった。
翌日から彼女を無視した。
彼女も目も合わせないようにして、タイヨウを遠ざけた。向こうも何か言われたらしい。
そんな状態になって数日後、駄目押しとばかりに母親が言い含めた。
「もう遊んじゃ駄目よ……」
言われなくても、あんたのお陰様で自然消滅したよ。
何年も経って、母親がこの時の彼女の家に乗りこんで、無理矢理別れさせた事を知った。ある事ない事言ったらしい。
だらしない父親の姿をタイヨウと重ねられても迷惑だ。しかし、それを言っても無駄だと知っていた。
高校の時、既に浮気がバレていた父親が漏らした。
本当はもう母親に“女”を感じないが別れたくはない。
その時父親が貢いでいた相手は生活力が皆無だったから。父親は母親を“自分の代わりに家事を代行してくれるロボット”と見なしていた。
普通に「最低野郎」だと思ったし、そう言ってやった。
思うに、両親は互いに、タイヨウを介して秘密を持ってしまったのだろう。
だからタイヨウに黙っていてもらうためにおだてて機嫌を取る。腫れ物のように扱う。
両親にそれぞれ非があって、タイヨウにはない現状。
もしタイヨウがグレて不良になっても両親は何も口出しできないのではないか。
一歩間違えれば、たった一つきっかけを見つければ、両親の罪を並べ、責め立て、跪かせられる、かもしれない。
俺がこれまでどんだけ辛かったかを思い知らせ、後悔させて、復讐する――。
無意識にそんな想像を積み上げる自分にゾッとして、吐き気が込み上げた。
両親の前であからさまに苛立ってみせた事はない。一度も暴力を振るった事はないし、暴言も同年齢の奴らよりはずっと少ない。部屋の壁に穴を開けた事もない。
それなのに一生の罪を背負っているような重い罪悪感を、これからも味わい続けるしかない気がした。
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