第4話 最高の披露宴。私たちが主役!


 お腹が空いた。




 次々に運ばれてくる料理。

 でも食べられない。食べる暇がない。

 次々と訪れて来る友達、上司、親戚。

 みんな笑顔で私たちを祝福してくれる。

 スマホを手に写真を撮ろうと言ってくる。

 とてもじゃないけど無下に出来ない。

 だってみんな、私たちを祝福してくれてるんだから。

 最高の衣装を着た最高の私を、写真に納めたいと来てくれるんだ。

 私は笑顔を向ける。


 でもお願い、一口でいいの。食べさせて。





 そんなこんなで披露宴は進んでいく。

 友人挨拶、高校からの親友みっちゃんにお願いした。

 みっちゃんは明るくて面白い女の子だ。

 だからきっと、楽しいスピーチになるだろう、そう思ってお願いした。


 私の予想通り、みっちゃんは顔芸を交えながら、私との思い出を楽しく語ってくれた。

 会場は大盛り上がり。

 やっぱりみっちゃんにお願いしてよかった、そう思った。

 私もみんなも、お腹を抱えて笑う。

 でも急に、みっちゃんのテンションが変わった。


 え……どうしたの、みっちゃん。

 えええええええっ?ほんとにどうしたの?マジ泣き?


 みっちゃんがしんみりとした口調で、私のことを話し出した。




 美玖みくは学校で、少し浮いていた私の友達になってくれました。

 美玖に出会ってなかったら、私の高校生活はあんなに輝いてなかったと思います。

 美玖のおかげで、私はクラスメイトとも仲良くなれました。

 それぞれ違う大学に行ったけど、それでも美玖は私と会ってくれました。

 美玖と離れて寂しい思いをしていた私のこと、まるで気付いていたように。

 就職活動の時も、よく励ましてくれました。

 考えてみたら私の学生時代は、美玖でいっぱいでした。


 そんな美玖が今日、こんな素晴らしい人と結婚して。

 こんなに嬉しいことはありません。

 美玖の幸せな笑顔を見れて、私は自分のことのように嬉しいです。

 そして……ほんの少し寂しいです。


 これからは会う回数も減るんだろうな、そう思ってました。

 でも美玖は、そんな私の気持ちにまた気付いてくれました。

 結婚しても、私たちの関係は何も変わらない。

 私たちはずっと友達だよ、そう言ってくれました。

 美玖の温かい言葉に、私は泣きました。


 私は神様に感謝してます。こんな素晴らしい友人と出会えたことに。

 美玖、ありがとう。

 いつも綺麗だけど、今日は最高に綺麗だよ。

 これからもどうか、私の最高の友人でいてくださいね。





 ……え?私、泣いてる?

 涙が止まらないよ。


 友達のテーブルを見ると、みんなも泣いていた。

 一番奥のテーブルで、お母さんも泣いている。

 会場が静まり返り、みっちゃんのすすり泣く声だけが聞こえる。

 そして隣を見ると、あっくんも泣いていた。


 手招きされたみっちゃんが、スピーチの手紙を持ってやってくる。

 立ち上がって受け取り、私はみっちゃんを抱き締めた。


 涙が、涙が止まらなかった。


 絶妙なタイミングで司会者さんがコメントを入れると、会場中が拍手でいっぱいになった。

 抱き合う私たちに、みんなが拍手してくれた。泣いてくれた。

 私は号泣した。みっちゃんを力強く抱き締めた。

 私こそありがとう。みっちゃん、これからもよろしくね。




 みんなが私を見ている。

 笑顔を向けてくれる。泣いてくれる。

 おめでとう、お幸せに、そう祝福してくれる。


 これまで生きてきた中で、こんなに注目されたことあったっけ。

 あっくんと二人、まるでこの世界の中心にいるみたいだった。


 ああ本当、幸せだ。






 お色直し。先ほどの清楚な雰囲気から一転、私は深紅のドレスで登場した。

 会場がまたまた拍手と歓声に包まれる。


 最高!


 一卓一卓にキャンドルを灯していくと、みんなが口々に「おめでとー!」「きれいー!」と声をかけてくれた。


 一卓3000円の演出だけど、私は満足だった。

 うん、元は絶対取れたよ。





 後半戦のメインはあっくんに譲ってあげた。

 名付けて「じゃんけん大会!新郎に勝って幸せのお裾分けを手に入れよう!」。

 う、うん……ネーミングセンスは言わないで。プランナーさんがつけてくれたのよ、これ。


 全員が立ち上がり、あっくん一人を相手にじゃんけんをしていく。

 負けた人は着席。勝ち残った5人が、高砂の横に並ぶ豪華景品をゲット出来る。

 マイクを向けられたあっくんが、少し緊張気味に「ではいきます。じゃーんけーん!」とじゃんけんしていく。

 その度にあちこちから「うおーっ!」「やったー!」と声が上がる。


 中でも驚いたのは部長さんだった。

 いつも穏やかで気品溢れる紳士、それでいて少し怖い感じのする部長さん。

 その部長さんが誰よりも大声で、そして最高のリアクションで場を盛り上げてくれていた。

 残り10名になったところで、あっくんの周りに集められる。

 いよいよ最終決戦、部長さんも残っていた。


「よっしゃー!商品、絶対取るぞー!」


 拳を突き上げて部長さんが叫ぶと、先輩や同僚たちが歓声を送る。

 何これ。部長さん、最高じゃない!

 そんな部長さんに勝たせてあげたくて、心の中で祈る。

 その祈りが通じたのか、見事部長さんは最後まで残ってくれた。


「勝ち残られた皆さま、おめでとうございまーす!」


 司会者の声と共にBGMがひときわ大きくなり、場内の雰囲気は最高潮に。

 景品を手にした部長さんは「取ったぞー!」と天高く掲げた。

 カメラマンの誘導で私たちに並ぶと、もう一度景品を掲げてピースしてくれた。


 最高、もう最高じゃない!こんな部長さん、初めて見たよ。






 照明が少し暗くなり、BGMも静かな曲調の物へと変わる。

 いよいよ披露宴の締め。

 両親にあてた新婦の手紙、花束贈呈、挨拶。


 私はスタンドマイクの前に立った。

 そして「お父さん、お母さん、今まで本当にありがとうございました」そう言おうとした。


 でも、声にならなかった。

 涙が止まらなくなっていた。

 肩が震える。声も震えている。


 そんな私の肩を優しく抱き、あっくんがハンカチで涙を拭いてくれた。

 私は何度も何度も声を詰まらせながら、お父さんお母さんに感謝の言葉を伝えた。

 周りは静まり返り、私の手紙を読む声だけが響いている。

 みんな泣いていた。私の言葉一つ一つにうなずき、涙を流していた。




 感動のフィナーレ、花束を渡すとお父さんに抱き締められた。お母さんに抱き締められた。

 私は二人の胸に顔を埋め、号泣した。

 そんな私たちを見つめ、会場は涙でいっぱいになっていた。




 あっくん、締めのスピーチもよかったよ。

 両親や友達、会社への感謝の言葉。

 そして、私のことを絶対に幸せにしますと言ってくれて。

 幸せ過ぎて死んじゃいそうだよ。

 今日まで散々困らせてきたけど、私は今、最高に幸せだよ。

 これからはあっくんのこと、絶対大切にしてあげるからね。

 私の方こそ、よろしくお願いします。

 今日のこの幸せを胸に、私はあっくんのこと、絶対に幸せにしてみせます。




 あ、お腹が空いてるの忘れてた。



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