第5話 新生活の始まり
最高だった結婚式。
二次会も大盛り上がり。楽しかったー。
でもおかげで二人共、ホテルに着くなりバタンキュー。
いわゆる「新婚初夜」なるものは存在しなかった。
ただひたすらに爆睡。お酒、飲みすぎちゃった。
次の日。
二日酔いの体に鞭打って空港へ。
新婚旅行、ハワイにいざ出陣!
本当はヨーロッパに行きたかったんだけど、式を妥協しない代わりに私が飲んだ条件がこれだった。
まあでも、ハワイにも行ってみたかったし。あっくんと二人きりでの海外旅行、思いきり楽しんできました。
一日一日がキラキラ輝いていて、本当に楽しかった。
でも、楽しいことはすぐに終わってしまう。
帰りの飛行機の中で、これは夢だったのかな、そんな風に思っちゃうぐらいあっと言う間の旅行だった。
山ほどのお土産を持って、戻って来た私たち。
終わったんだ、旅行。
そう思うと少し寂しくなったんだけど、でも不思議。家に入るとほっとした。
ああ、帰ってきたんだ。私とあっくんの家に。
ここから新しい生活が始まるんだ、そう思うと嬉しくて。
私はあっくんにキスをした。
いっぱい我儘言ってごめんね。
私、いい奥さんになるからね。
これからこの家で、一緒に幸せになろうね。
結婚して初めての出社。
ちょっと緊張した。
でも、楽しみでもあった。
私たちはたくさんのお土産を手に、会社へと向かった。
私とあっくんは別の部署で働いている。
ちょっと心細かったけど、別れる時あっくんが、「じゃあ昼休みにね。お互い頑張ろう」そう言ってくれて元気が出た。
事務所に入ると、みんなの視線が一斉に私に向いた。
ああ、この視線……結婚式の時と同じだ。
「おかえりー!」
「
みんなが口々にそう言って私を囲む。
恥ずかしくてうつむく私を冷やかして来る。
「新妻さん。新婚旅行、どうでしたか?」
「もう子供は出来ましたか?」
「なんでそうなるのよー!もおーっ!」
お土産を渡し終えた頃に、始業のベルがなった。
さあ、気持ちを切り替えよう。
私は頬を叩き、パソコンに向かった。
昼休みも、私の周りにみんなが集まってきた。
式の美玖、ほんと綺麗だったよ。
いい式だったね。
最後のお手紙、もらい泣きしちゃったよ。
津川くんも格好よかったよね。会社とは別人みたいだったよ。
おいおい、別人ってどういう意味だよ。
あははははっ!
旅行、ハワイだったよね。どうだった?
やっぱり海、綺麗だった?
英語は?英語で向こうの人と話したりしたの?
とまあこんな具合で、私は話題の中心だった。
みんな私の言葉を待ってくれて、私が話すたびに驚いたり笑ったり。
うん、こういうのもいいじゃない。
最高。
そんなことを思ってると、後ろからあっくんの声がした。
「美玖、ご飯終わった?」
「うん、ちょうど終わったとこだよ」
「じゃあ挨拶に行こうか、部長のところ」
「うん!」
そう言って部長のお土産を手にした私たちを、またまたみんなが冷やかしてくる。
「部長への挨拶ですか、新婚さん」
その言葉にあっくんが赤面する。
「ちょっとー、あっくんまで冷やかさないの」
「あはははははっ、ごめんごめん」
「ああいえ、その……みなさん、挙式では色々とお世話になりました。余興までしていただいて、本当嬉しかったです。
それでその……これからも美玖のこと、どうかよろしくお願いします」
あっくんがそう言って頭を下げると、「きゃー!」「津川くんがいい旦那してるー!」と、口々に冷やかしてきた。
照れ症のあっくんは困った様子で、耳まで赤くしてうつむいてしまった。
そしてそんなあっくんが可愛いらしく、みんなが顔を見合わせて笑っていた。
「失礼します」
緊張気味に部長室の扉を開けた私たち。
そんな私たちを、部長はにこやかに迎えてくれた。
「やあ、今日からだったね」
「は、はい。部長、その……この度は色々と、本当にありがとうございました!これは、その……旅行先で買ってきたものなのですが、よろしければ……」
緊張して固くなっているあっくんが、そう言ってお土産の袋を差し出す。部長は笑顔のまま受け取って、「ありがとう。いただくよ」そう言ってくれた。
「それで?旅行はどうだったかな。確かハワイだったね」
「は、はい。お陰様で有意義な旅行になりました。リフレッシュも出来ましたし、今日から心機一転、頑張りたいと思います」
「そうか、それはよかった。津川くんも、もう一人じゃない。これからは隣にいる小林くん……じゃなかった、奥さんのことも守っていかなくてはいけないんだ。頑張らないとね」
「は、はい、頑張ります!」
「うん、期待してるよ」
「ふうっ……」
扉を閉めると、あっくんがこの世の終わりみたいに大きなため息をついた。
「どうしたのよ、あっくん」
「あ、いや……緊張したなって思って」
「仕方ないとは思うけど……それでも緊張しすぎじゃない?」
「いやいや、緊張するって。部長だよ?入社式や会議の時に何度か声をかけてもらっただけの、僕らにとっては雲の上の人なんだよ?」
「まあそうなんだけど……でも祝辞だって気持ちよく引き受けてくれたし、あっくんのことだって誉めてくれてたじゃない。それにほら、ゲームの時だって、あんなに楽しそうにしてくれて。きっとあっくんのこと、認めてくれてるんだって」
「そんなことないって。成績だって中の下なんだし」
「それだって部長、言ってくれてたじゃない。津川くんはこんなに真面目なのに、どうして成績上位に入らないのか。それは彼が、我々の見えない所で誰もが嫌がる仕事を手伝ってくれてるからなんです。言ってみれば彼は、チームの業績を上げる為、影で努力してくれている。私は彼こそが、チームのMVPだと思ってますって」
「社交辞令だよ、社交辞令。結婚式の主賓なんだ、褒めてくれて当たり前なんだって」
「あっくん卑屈すぎだって。大丈夫だよ、あっくんはこれから、どんどん成績だって上がる。それに私もあっくんの為に、家でも頑張るから」
そう言って腕を組むと、あっくんは少し照れながら「う、うん……ありがとう」そう言ってまたうつむいた。
ほんとにもう、可愛い旦那様だ。
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