Just Married!

栗須帳(くりす・とばり)

第1話 幸せな一日の始まり


 私の大好きな曲が流れ出す。

 静かな出だしから、やがて荘厳な曲調へ。


 気持ちが高揚していく。

 感情が高ぶり、涙が溢れて来る。


 あれ……


 組んでいる腕が震えている。

 見上げると、隣に立つ父さんはもう泣いていた。






 最高のタイミングで開く扉。

 室内に飛び込んでくる光が少し強く、思わず目を伏せる。

 次に目を開けると、そこには花で彩られた舞台が整っていた。


 両サイドには友達、会社の先輩後輩、そして親戚のみんなが私を見つめている。

 みんな笑顔で手を叩き、扉口に立つ私に熱い視線を向けていた。




 係りの人の手招きにより、ゆっくりと階段を降りていく。

 打ち合わせで言われた通り、父さんと呼吸を合わせて、一歩目を右足に揃えて。

 階段を降りると、深紅の絨毯が私を迎えてくれた。




 夢にまで見たバージンロード。




 私はこれからほんの数十秒、父さんと二人でこの道を進んでいく。

 そしてその先にはーー




 全面ガラス張りのステージ。

 ガラスの向こうには透き通る海が見える。

 そしてどこまでも青い空。

 これからの私を祝福してくれているような、美しい景色。


 そしてそこに立っている、タキシード姿の彼。

 人生を共に歩む、そう誓い合った愛する人。


 津川篤史あつしくん。同じ職場の同期。

 職場では少し冴えない彼だけど、でも、うん。格好いいよ。


 今日のあっくんを見れば、職場の女子たちも少し悔しがってるかも。

 そんな彼が緊張した面持ちで、私たちを見つめている。


 私は今日、小林美玖みくから津川美玖になります。





 音楽が最高潮に達したと同時に前に進む。

 私は花嫁らしく、少しうつむきがちに微笑む。


 ああ、幸せだな。


 私はこの瞬間の為に、この世界に生まれてきたんだ。

 そう思えるぐらい今、幸せだ。

 少し視線を向けると、友達が笑顔で手を振っていた。

 涙ぐんでる子もいる。


 ちょっと……照れくさいな。

 でも嬉しい。


 みんなが私を見つめ、笑っている。泣いている。

 私の世界はこんなに温かくて、優しかったんだ。





 もう少し、歩いていたかったな。

 そんな風に思うぐらい、あっと言う間に着いちゃった。

 あっくんの所に。


 父さんはハンカチで涙を拭くと、あっくんに手を向けた。

 その手をあっくんが握り締め、深々と頭を下げる。

 父さんは小さくうなずくと、私の手を取り、あっくんの手にそっと重ねた。

 そしてその上に自分の手を置き、「幸せに」そう言ってくれた。




 父さんが席に戻るのを確認して、係員が私たちをうながす。

 ステージへと進む私たち。

 目の前に広がる景色が、私たちを包み込んでいく。





 私たちの結婚式は、こうして幕を開けた。

 本当に幸せな、幸せな一日の始まりだった。



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