第4話 お墓参り
これは山形県に住むNさん(男性)が、大学生の時に体験した話です。
Nさんはその当時、実家に住んでいて、近所の『何でも屋』でバイトをしていました。
何でも屋と言っても、廃品回収や家の簡単な修繕などを請け負う。町の便利屋といった感じです。
その便利屋は、1階が事務所になっていて、2階は店長と奥さんの居住スペース。
バイトは、Nさん1人しか居なかったそうです。
仕事の依頼をしてくるのは、ほとんどが町の人達で、基本的に電話で仕事を受けていました。
しかし、その依頼は珍しくホームページの問い合わせからメールで来たそうです。
その内容は、山形県某所にあるお墓参りの依頼でした。
何らかの事情でお墓参りが出来ない家族に代わり、先祖代々のお墓を綺麗にして、お参りして欲しいという依頼は特に珍しく無かったそうです。
ただ、その依頼内容はかなり細かく、お墓参りをして欲しい日時からお墓参りの作法まで記載されているものでした。
そのお墓というのは、山形県のとある山を少し登った場所にあり、霊園などではない先祖代々のお墓だというもの。
依頼主は高齢で山を登るのが辛いので、代行して欲しいといった旨が書いてあった。
前金で10万円。
無事にお墓参りを終えたら15万円を支払うという依頼で 、店長は金持ちの老人が頼る人が居なくて依頼してきたのかと思い、喜んで仕事を引き受けたそうです。
そのお墓参りの内容というのが、深夜2時までにお墓のある場所までたどり着き、2時になったらメールの手順通りにお墓参りを行うというもの。
そして、しっかりとその手順を守ってお墓参りをしたという証拠を残すために、その様子を撮影して欲しいというものでした。
そこでNさんは、店長がお墓参りをする様子を撮影するための、カメラマンとして同行することになったそうです。
お墓参り当日、1時間半くらい車を飛ばしてお墓のある山のふもとまで行き、真っ暗闇の山道を懐中電灯の明かりを頼りに登って行くと、すぐに指定された場所に辿り着いたと言います。
しかし、それはお墓と言えるようなものではなく、墓石も見当たらない。
木の杭が四箇所、綺麗な正方形になるように地面に打ち付けてあり、しめ縄のような太い縄で囲ってある。
そして中央には盛土がしてあり、鎌が1本突き刺さっていた。
明らかに異質ではあるものの、店長は特に気にしない様子で「そろそろ撮影してくれー」と言うので、Nさんはスマホで撮影を始めたそうです。
深夜2時丁度になったところで、メールに書いてあった通り、店長は縄を超えて中央の鎌を盛土から引き抜く。
あとは書かれていた手順通りにお墓参りを行いました。
引き抜いた鎌で、盛土を囲っていた縄を切っていく。
4箇所の縄を切り終わったら、盃に日本酒を注いで盛土の上に置き、メールに書いてあった通りの神主が唱える祝詞のような文言を読む。
読み終えたら、盛土の上に置いていた盃の日本酒を、1口で一気に飲み干す。
最後にその盃を鎌で割った後、盛土に鎌を突き刺したら、お墓参りの手順は終わり。
Nさんは、その様子を少し気味が悪いと思いながら撮影していたと言います。
一通りの作法を終えて山を降りる頃には、深夜3時近くになっていたそうです。
その日は月も出ておらず、懐中電灯の明かりを頼りに山を降りていると、「ザッ…ザッ…ザッ…」と後ろか何か足音のような音が聞こえてくる。
「店長、なんか聞こえません?」
Nさんは、地図を見ながら前を歩く店長に声をかけ、足を止めるとその音は聞こえなくなる。
「気のせいだろ」と店長が歩き出し、また歩き出すと「ザッ…ザッ…ザッ…」と聞こえてくる。
怖くなったNさんは、店長に「なんか後ろから聞こえるんですけど…。」再び伝えるも「気のせいだろ。」と言って、どんどん山道を降りていく。
気味が悪いと思いながらも、そのまま店長について行ったNさんですが、どうも様子がおかしい。
登る時は20分くらいだったはずなのに、もう30分以上山を歩いている。
もしかして迷ったのか?
そう思ったNさんは、「店長、迷ってませんよね?」と声をかけると、また「気のせいだろ。」と言って、ひたすら山の中を進んでいく。
後ろの足音のような音も、ずっとついてくる。
さすがに不安になったNさんは、「店長!ちょっと地図見せてくださいよ!」と駆け寄って地図を見ると、そこには何も書かれていない真っ白な紙。
「え、これ何も書いてないじゃないですか!」と声を荒らげると、店長がNさんの方を見て満面の笑みを浮かべながら、
「気のせいだろ。」
「気のせいだろ。」
「気のせいだろ。」
「気のせいだロ。」
「きききき気のせいダロ。」
「きき、きの、きの、気ノセイダロ。」
と壊れたCDプレイヤーのように繰り返し、恐怖のあまり動く事が出来なくなってたNさんに向かって、
「一緒に来るか。」
と呟いた。
するとさっきまで聞こえなかった「ザッ…ザッ…ザッ…」と言う足音が「ザッザッザッザッ」と明らかにこっちに向かって近づいてくる。
店長は、変わらず棒立ちのまま「き、き、き、気のせいだろ」
と繰り返している。
耐えられなくなったNさんは、無我夢中で山を降りると、ふもとに停めた車の所までたどり着いた。
すると「おい!どこ行ってたんだよ!」と声を掛けられ、ふと声の方を見ると店長がいる。
訳が分からなかったが、店長の話によると無言で「ザッ…ザッ…ザッ…」と足音が聞こえてたから、付いてきているもんだと思って山を降り、振り向いたら誰も居なかったとのこと。
取り敢えず周囲を探していたら、Nさんが必死に駆け下りてくる姿が見えて戻ったのだと言う。
Nさんは、店長の話を聞いても何が起こっているのか理解出来ませんでしたが、とにかく帰ろうという話になり、その日は店長の家まで送ってもらい帰宅したそうです。
その翌日も夕方からバイトが入っていたので、昼過ぎまで寝てから昨日の出来事を聞きたいという気持ちもあり、予定より1時間ほど早くバイト先に行くとパトカーが止まっている。
その様子を見ていた野次馬の1人に何が起きたのかを聞くと、店長が自殺して亡くなったとのこと。
そのままNさんは家に引き返し、昨日のことを思い出して自分にも何か影響があるのではないかと、震えていたそうです。
しかし、特に何か起きることも無く数日が過ぎていった。
そうしている内に、店長の葬儀が行われるという事で、Nさんも出席したそうです。
そこで初めて、店長は鎌で自分の首を切り裂いて自殺したと言う話を聞いた。
間違いない、あのお墓参りと関係がある。
Nさんは、直感的にそう感じたと言います。
ただ、店長の奥さんからも「店は畳むから、ごめんね。」と給料とは別で20万円を渡され、何も聞くことは出来なかったそうです。
Nさんも大学を卒業し、関東の方に就職したことで、その店の事は忘れていた。
その後、仕事も落ち着いて数年ぶりくらいに山形の実家に帰省し、例の便利屋があった場所に散歩がてら行ってみると、そこには立派な二階建の家が建っていて、駐車場には高そうな外車。
実家に帰って母親に話を聞くと、どうやら店長が死んだことで生命保険が数千万円も入ったらしく、すぐに店を潰して新築に建て直したそうです。
また、奥さんはすぐに再婚もしたらしく、再婚相手との間に出来た子供と3人で仲良く暮らしいているとのこと。
あのお墓参りの依頼主が、一体誰だったのかはわかりませんが、1つだけ引っかかることがあると言います。
新築の庭の端の方に、四隅を縄で囲って中央に盛土がしてあり、中央には鎌が突き刺さっていたと語っていた。
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