第3話 Twitter

これは、都内に住むKさんという女性から聞いた話です。


Kさんは、特にこれと言った趣味もなく、仕事が終わったら帰ってきて寝る。


休日もなんとなーく、ぼんやりと過ごす事が多かったそうです。


そんなKさんを見兼ねた友人が、SNSでもやったら?とTwitterを勧めてきたと言います。


散歩して外の写真を撮ったり、作ったご飯を撮るだけでも楽しいよと誘われたそうです。


あまり人との交流が好きではないKさんでしたが、ネット上ならそんな煩わしさもないかも…と思い、Twitterを始めてみることに。


適当に「なぎさ」と言うハンドルネームを付けることにしました。


友人に言われた通り、適当に風景の写真を撮ったり、ご飯の写真を撮ったりしてTwitterにアップしていましたが、特に何の反応もありません。


1週間くらい続けたところで、いいねも数える程しか貰えず、フォロワー数も0のまま。


やっぱり私には合わないな…。


そう思ったKさんは、徐々にTwitterへの興味も薄れてきて、更新することも無くなったそうです。


それから数ヶ月が過ぎた頃、仕事が休みだったKさんは、朝食を食べながらふとTwitterの事を思い出して、久々にアカウントを見てみることにしました。


すると、フォロワーが増えている。


『1 フォロワー』


気になったKさんは、そのアカウントを見てみると、「なぎさ」というハンドルネーム。


私と同じハンドルネーム…?


そのアカウントがフォローしているのは、Kさん1人で、誰からもフォローされていませんでした。


不思議に思いながらそのアカウントを見てみると、ツイート件数は16,000件以上。


凄いヘビーユーザーだ…私とは大違い。


そんなことを考えながらも、自分の同じハンドルネームのアカウンに興味を惹かれたKさんは、適当にツイートを遡って見てみることに。


《就活めんどうだなぁ。この前の面接もボロボロだし、もう最悪。この際ニートでもいいかな。》


《今日の夜ご飯は、白身魚のフライと自家製ソース!やっぱりタルタルソース最高ー!!!》


《電車凄い混んでて朝から不愉快ー。早く引っ越したい。》


そんな内容ばかりで、どうやら自分の日常生活を呟くアカウントのようでした。


そんな他人のどうでも良い日常でしたが、とても細かく書いてあったので、人の人生を覗いているような気分になり、一つ一つ暇つぶしに読んでいたそうです。


すると、気になる投稿を発見しました。


≪転職成功!これでブラック会社の社畜からやっと抜け出せるー!!≫


Kさんは2年前に自分も転職していたので、何だか他人のように思えなくなってきました。


その投稿の日付を見ると、2019年9月15日になっている。


9月15日は、Kさんの母の誕生日の前日で、転職先の会社から内定を貰った日だったそうです。


この人、私と全く同じタイミングで転職してるんだ…。


少し気味が悪いと思いながら、翌日のツイートを見ると、


《2019年9月16日 今日は母の誕生日プレゼントを買いに行ってきました!今年は秋物のコートを選んだけど、お母さん喜んでくれるかな?》


2年前の母への誕生日プレゼントは、Kさんも同じく秋物のコートをプレゼントしていました。


さすがに、自分と似すぎている。


不安になったKさんは、最新のツイートを見てみると、


《今日はお休みだから、ちょっと遅めの朝ごはん。食パンにチーズをのせたトーストとコーンスープに目玉焼きも焼いちゃった。うまく半熟にも出来て幸せ。》


Kさんが今日食べているのは、チーズトーストとコーンスープ。そして半熟に出来た目玉焼き。


これは、私の日常を監視してるアカウントだ。


そう思った途端、急に恐ろしくなったKさんですが、そのアカウントにメッセージを送る事にしたそうです。


《あなたは誰ですか。》


すると、メッセージはすぐに返ってきました。


《私はK(フルネーム)です。》


相手は、Kさんの名前を名乗って来たそうです。


ストーカーかもしれない。


そう感じたKさんは、部屋の中の鍵が全部閉まっているかを確認し、隠しカメラなど無いか徹底的に調べましたが、それらしき物は見つかりませんでした。


警察に届けるべきかと考えていると、新着メッセージが一通。


そこには、1枚の写真が添付されていました。


玄関側の廊下から、リビングでカメラを探すKさんの姿を撮影した写真。


その写真を見た瞬間、もう1枚の写真が送られてきました。


それは、まさに今スマホを持ってメッセージの画面を開いているKさんの後ろ姿を撮影した写真。


思わずトイレに逃げ込むKさん。


シュポッ シュポッ シュポッ


と軽快な音を立てて、次々にTwitterのメッセージが送られてくる。


Kさんの籠っているトイレの扉を撮影した写真が何枚も何枚も何枚も、次々と送られてきます。


震える指でKさんは《もうやめてください!》と、やっとの思いでメッセージを送ると、相手からのメッセージが止まりました。


とりあえずホッとしたKさんでしたが、すぐにブロックしようとスマホに目を移すと、


シュポッ


っと一通の新着メッセージ。


《上にいるよ》


反射的にトイレの天井を見上げると、乱れた黒くて長い髪の毛が垂れ下がり、口角が異常に引きつった満面の笑みをした女が張り付いていたそうです。


その瞬間、Kさんは気を失ってしまい、数時間ほどトイレの中で倒れていたそうです。


目が覚めてスマホを見た時には、Twitterのフォロワーは0になっていて、例のアカウントも消えていたと言います。


「今思い出すと、何だかトイレで見た女の人、少し私に似てた気もするんですよね。」


そう笑顔で話すKさんを見ていて、私は全てを悟りました。


Kさんの顔の左半分は、異様なまでに口角が上がって引きつっていて、何故か左側の髪だけが乱れていたのです。


あなたも見知らぬ人からTwitterでフォローされた時は、くれぐれもご注意ください。

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