その8
俺の腕時計のデジタル表示は、20:00。
即ち午後10時丁度を示していた。
俺がいたのは有明埠頭辺り(まあ、そう思っていてくれ。詳しくは言えない)
すぐそこが東京湾だというのに、辺りは霧だらけで、一メートル先も見えない。
シートベルトを外し、ワゴン車から外に出る。
『大丈夫かよ。ダンナ?』
”東洋一のプロ・ドライバー”ジョージが運転席から声を掛ける。
車から降り立った俺は、ちょっとしたランボーだった。
但し、見かけだけだ。
奴らはワンマン・アーミーともいえる武装で固めていたが、今の俺にあるのは.45口径のリボルバーと、60発の弾丸、後はスタン・グレネードと三段式警棒くらいのものだからな。
『大丈夫じゃない。向こうは分かっているだけでも手勢が8人。しかも全員UZIで完全武装しているようだからな』
『じゃ、
『じゃ、いらん。ボートは用意してくれたんだろうな?』
俺の言葉に、ジョージは黙って肩をすくめ、車から降り、俺に手渡す。
『代わりにそいつを持ってけよ。』
『有難う』
俺はそう答えて袋を受取り、霧の中に波と遠くから聞こえる霧笛の音を頼りに、埠頭を海に向かって歩き出した。
『帰りの迎えはいらないんだな?!』
背後からジョージが問いかけた。
俺は何も答えず、黙って手を振ると、そのまま埠頭を降り、波消しブロックの間を縫って降りて行った。
そこには注文通りの小型モーターボートが、波消しブロックにロープで結ばれ、水面に浮いていた。
俺はロープを手早く解き、エンジンを掛ける。
ボートの扱いはそれほど得意じゃないが、習うより慣れろだ。
霧の中を10分ほど走ったろうか。
黒い影が前方に見えてきた。
俺は小型の双眼鏡を取り出し、眼を凝らす。
そこは島・・・・というより、一種の海に浮かぶ砦のようなもので、第二次世界大戦に入る少し前に、海軍が敵(この場合は米軍だろう)の本土上陸に備え、急ごしらえで造ったものだという。
俺はエンジンを切り、双眼鏡で島を探った。
今の所人影は見えない。
俺はオールを出して漕ぎながら、島へと接近する。
再びボートを止めた。
石垣のようなものに囲まれてあるが、一か所だけ、桟橋のようなものが設けられてあった。
人影が見えた。
銃を構えた男が立っている。
俺はオールを置いた。
”充分だな”
そう判断し、立ち上がると、
『おい!』人影に向かって声を掛けた。
男ははっとしたようにこちらに銃(M16だった)の銃口を向けたが、その時には俺のスリングで脳天を射抜かれ、桟橋の上に倒れていた。
映画は見て置くもんだな。
”優作さん、有難う”
心の中で呟き、俺は桟橋に上がり、M16を取った。
石段を忍び足で上がっていくと、そこにも一人、やはりM16を構えた黒づくめが立っていたが、俺はそいつを背後からどついて気絶させる。
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