第3話 空飛ぶ熱帯魚

 デザセン部族長ガンジンの雄叫びに戦いのすう勢は決まる。


 オージンもこれでズワルスの勝利を確信し、ようやく人心地ついた。


 混沌の渦を見やり、渦が「おとなしい」事に安堵する。なにしろ、混沌の渦は気まぐれなのだ。いつまた、魔物を吐き出すことか……


 オーガは言わないが、ヒト、それをフラグと言う。


 ペネロッテの巨乳だけが残念だった等と考えていたオージンの視界の隅で、混沌の渦が暗い光を放ち出した。


 急激な魔素の放出に、谷底にいた生き残りのオーガ達が苦しみ出す。全員が悶絶し、体色が夜色に変化し、身体のあちこちから角を伸ばし始め……


 理性を失い、互いに角で刺し殺し合う様子は、さながら蠱毒こどくの壺。果たして生き延びるものがいるのか、そして、それがいたとしてもそれは、これまでどおりのオーガなのか。


 こうして、ゴンドワ渓谷からオーガの二部族は姿を消したのであった。




 青空の下、高原の中である。小川が流れているすぐそばに、尻。


 そして、倒れている尻の持ち主の胴体に覆い被さる様に浮いているのは、白黒のストライプ模様の入った魚であった。

 ペネロッテが地球の知識で判断するならば、シマダイのような平たくて縦長、ではない。


 正面からは三角形の断面で頭と背鰭下は太く、胴体から尾に掛けてはシャープ。

 熱帯魚で言えばインペリアルゼブラプレコにそっくりである。




 あれぇ?あたし、転生した?!


 そう思った瞬間、酷い頭痛がして、あたしは意識を失ったんだと思う。膨大な情報量に頭がついていけなかったんだろう。


 ペッチンペッチンと、少しざらざらした濡れた手(?)で、ほっぺたを叩かれた。



「おーい、起きろー。こんなところで裸で寝てると、露出狂だぞー。起きないと尻割るぞー」



「尻は割れてますっ?」



 気がついたあたしが身体を起こすと、目の前に居たのはー



 空飛ぶ魚。



 白黒ストライプの、鼻先がキュッとしてて、背鰭はおっきな三角形。頭がおっきくて尾びれまではシュッとしてて、身体の底がまっ平。


 なにこの、カッコカワユイの?!



「やっと起きたわね。アンタ、こんなところで何してんのよ?」



 ちょっ、魚なのに野太い声!オネエなの?!なんか、芸能人のあの、でっかいおばさん……おじさん? ○ツ子さんみたい。


「あー、ちょっと頭痛で倒れてたみたい」


「大丈夫?」


「うん。大丈夫。アタシはペネロッテ。アナタは?」


「アタシは空魚。タイプ、プレコ属。プレコのナツコとはアタシのことよ」


 ナツコはそう言うと、その場で全身を見せつけるように水平一回転をしてくれた。


「尻丸出しの女が行き倒れてるから何かと思ったけど、気がついたならいいか。じゃ、アタシ行くわね」



 そう言って空中をシュッと泳ぐように、一瞬で白黒魚の姿は見えなくなってしまった。はやっ!



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