第4部 第10話 重慶との取引
重慶からの取引に仁軌がかかわると聞いた月涼は、今すぐの判断はできないと思った。
「ならば、まず、この場に仁軌さんが居ないと話に、なりませんね。」
月涼がリュートに言うと、リュートが思い出して言った。
「うむ。そう言えば、こちらに向かうために分かれてから、まだ、仁軌殿からの連絡が無かったな。それに、北光国からの脱出状況の連絡も確かめていなかった・・・。何か、来ていないか確認してみよう。」
月涼は、頷いてから重慶に言った。
「ということなので、仁軌さんが帰ってくるまで、この話はお預けです。重慶。」
「おいおいおい・・・。俺は、このままここに放置かよ。」
「それは、殿・・・リュートにお願いして下さい。私の権限では有りません。」
ニンマリと笑って、踵を返して出て行く月涼。
「お、お前、相変わらず・・・性格悪いなーーー。」
「お互い様ですよ。重慶。」
首だけ振り向いた月涼が重慶に言い、手を振って牢を出て行く。
その様子を笑いをこらえて見ているリュートが重慶に伝える。
「もう少し、そこにいてもらおうかな。なんといっても誘拐犯だからな。」
「リュート、お前まで、つれない事言わずに出してくれ。攫うわけないだろ・・・この状況で!」
叫ぶ重慶を置いて、去っていく二人。この後、半日ほどしてから牢を出してもらった重慶であった。
一方、行方が分からないまま、連絡が途絶えていた仁軌だったが、病治院の方からの移民申請報告で、連絡が取れることとなった。
「仁軌殿の居場所が分かった。リア、どうする?」
「どちらにいるんですか?」
「テスタの病治院にいるそうだ。救出した、囮の者がひどい怪我を負っているらしい。」
「そうですか・・・。では、仁軌さんが戻るまでにしたいことがあります。殿下。西蘭にいる密偵と最短で連絡を取って何日ですか?」
頷いた後、月涼がおもむろに地図を広げてリュートに聞く。
「鷹(ダリア)を使っても・・・往復で4日だな。仲達殿への連絡か?・・・あと、殿下じゃなく・・・。」
「・・・リュートですね。」
ニッコリ微笑みを返してから、月涼の表情になる。
「せっかくの和睦も一時しのぎに変わった今、西蘭との連携は不可欠です。」
今回の件は、重慶の案に乗っても乗らなくても、西蘭国にも大いに影を落としかねない事態となっていた。しかも、西蘭の慶事を逆手に取ると言うことは、青華国に牙をむいたと同じである。重慶の望む無血開城を成し遂げるには、9割の味方が必要となる。月涼もリュートも、重慶の態度から6割の味方と踏んでいた。残り3割・・・。
月涼がつかんでいる北光国の人脈は、養父の藩氏の人脈でもあるため、難しい判断だった。
「北光国の体質的に9割超えないと簡単に寝返る・・・。重慶が国を変えるには、大きな後ろ盾が無いと直ぐ内乱だな・・・。」
独り言の様にいう月涼に、頷くリュート。
「リュート・・・あなたの持つ海軍軍事力は、かなりのものと聞いています・・・。北の要塞から海軍を出せますか?」
「リア・・・いったい?何をするつもりだ?無血開城ではないのか?」
月涼は、地図とにらめっこをしながら、北光国の北の玄関である摂津港を指した。
「無血開城ですよ。ですが、後ろ盾を見せないと重慶は、すぐに転覆です。それでは、動く価値がありません。この時期、北海は、霧が多かったですよね?それに紛れて、摂津港の軍艦だけを叩き、青華国の艦隊を並べて欲しいのです。それだけです・・・。北光国の海軍は、弱い・・・。こちら側にも牙をむいたんですから・・・大義はあります。」
策士としての月涼の本領発揮で楽しそうに、リュートの顔を見て言う。
「やれやれ・・・君って人は・・・。分かった協力しよう。我妻の為に・・・ふー。」
リュートは、呆れながらも楽しそうな月涼を可愛いと思うのだった。
「それよりも・・・。」
そう言うと、リュートは、月涼の腰に手を回してぐっと引き寄せて、顔を近づける。
月涼は、慌てて、また、口を隠して言う。
「だ、だから・・・近いですーーーって。」
無視して、手をのけるリュート。
「まだ、朝の挨拶をしていない・・・。」
「おはようご・・・。んっんんんーーーー。」
唇を奪われて、息ができない月涼は、リュートの胸をドンドンと叩くが、更に深い口づけへと変わる。月涼の力が抜けるのが分かると、唇を離してから月涼を見つめなおして、リュートが言った。
「君が、私以外の事で楽しそうだから・・・。口を塞いだんだ。」
「もう・・・・・。」
月涼は、また、リュートの胸を軽く叩いた。
リュートが月涼を軽く持ち上げて言う。
「早く、君のすべてを手に入れたいよ・・・。」
月涼は、リュートを見下ろしながら、不思議そうな顔をして言った。
「どうして?私は、ここにいるわ。」
「そうだね・・・。でも、近くて、遠い。」
「そんなことないわ。だって、直ぐ、唇を奪うじゃない?」
「ハハハハハ。そうだな。君の唇を見るとつい奪ってしまうよ。誰にも奪われたくないからね。」
「誰にも奪われた事ない…あなたが初めてだから…。」
「本当に?」
リュートは、嬉しさで、月涼を持ち上げたまま、ぐるぐると回った後、また、深く、唇を奪うのだった。
そんな、二人の後ろで、コホンと咳ばらいをして、立つペンドラムがいた。
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