「ふっざけんな──ッ!」と、誰も居ない教室でイケ好かないギャルの机を蹴飛ばしたら──。ぼっちで陰キャな俺の日常は目まぐるしく変化した。もう戻れない、あの頃には──。
第8話 全肯定のイエスマン。此処に極まれり──。
第8話 全肯定のイエスマン。此処に極まれり──。
「先に言っておくとねっ! わたし、ミント系は好きじゃないからぁっ!」
「ぅ、ぅん……!」
アイスクリーム屋さんに向かう道中──。
音霧さんは突飛押しもなく、おかしなことを言い出した。
……うん。これって、ひと口ちょうだい宣言をしているようなものだよな。
大方予想はできていたけど、君はアイスクリームまでハレンチに染めてしまうと言うのか……。
とはいえもう、今の俺に打つ手はない。
流れに身を任せ、なるようになるしかないんだ……。
しかしアイスクリーム屋さんに到着すると……!
「うわっ。本当に来たし。サセスーの予想大当たりじゃん。てっきりカラオケ行っちゃったのかと思ってたし」
「あずを理解していれば、これくらい当然よ!」
なんと二匹のライオンがアイスクリーム屋さんの前に居たのだ!
「あっ……!」
音霧さんはなにかを思い出すように、驚いた顔を見せた。……うん。なんとなくわかっていたよ。君は群れからハグれてしまっていただけだって!
「なんであずはすぐにふらっとどっか行っちゃうかなー。つーかスマホ見ろし」
「あっ……!」
ポケットからスマホを取り出すと、なにやらポチポチし始めた。
すると軽井沢さんのスマホがピコンッと鳴った。
「いや、今さら返信しても意味ないから!」
「えへへ! ごめーん!」
ゆる巻ライオンは若干のオコを纏っているものの、小柄系巨乳ライオンの憎めないキャラは健在だった。
無事に群れとも合流できたみたいだし、この隙に俺はドロンしようかな。
なんて思っていると、ボスが眉間にしわを寄せながら俺のことを真っ直ぐ見ていた。
「隣に居る男はどうして此処に居るのかしら。ついにやらかしてしまったの? お利口さんだと思っていただけに、残念だわ」
あ、あれ……。あれれ……。
するとゆる巻ライオンまでも……。
「あ~。だから言ったじゃん。あずのは人にものを頼む態度じゃないんだよ。自業自得っしょ」
……そうか。俺が掃除をサボったと思っているんだ!
今すぐ誤解を解かないと!
とは思うも、二匹のライオンから向けられる冷たい視線に言葉が詰まる……。
……うっ。
「ふふんっ。そう思っている時期がわたしにもありました! でも! お掃除大好き人間くんはバッチリお掃除はしてきてるんですッ!」
おぉ……! まさか音霧さんに救われる日が来るなんて! 彼女はハレンチなだけじゃなかったんだ!
「まじ?」
「あら、本当なの? それにしては早過ぎると思うのだけれど」
「だってお掃除大好き人間くんだよ? わたしたちがするのとはわけが違うよ~! 今度ね、お部屋の掃除もしてもらうんだぁ~! いいでしょお!」
あ、あれぇ……。そんな約束をした覚えはないんだけど……。誤解を解いてくれたのは嬉しいけど、しれっと変なこと言い出さないでくれるかな……。
「なんだしそれ。またあずがわけのわからないこと言い出したし」
興味なさげなゆる巻ライオンに対し、ボスは神妙な面持ちに変わっていた。
「冗談にしても笑えないわね。あず、あなたは一人暮らしでしょう? そんな簡単に男を家に招いてはだめよ? 時に男とは狼にだってなるの。自身の安全と、彼の今後の人生を考えるのであれば、馬鹿なことは言うものじゃないわ」
ぼ、ボス……。ひどいよ……。まるで俺が音霧さんを襲ってしまう前提で話をするなんて……!
だが、これでいい。
なにが楽しくて、家の掃除まで請け負わなければならないんだよ!
勝手な想像で申し訳ないけど、音霧さんの部屋って絶対にハレンチ部屋だ。
そのへんに水玉模様がさっぽってあったり、如何わしい毛が床に落ちていたり! とにかくハレンチの宝物庫と化しているに違いない!
絶対に足を踏み入れてはいけない、禁断の部屋!
だというのに、今回の音霧さんは止まらない──。
「うーん。でもその前に告白されるんだよね?」
しないよ。しないからね?
「そうね。順序としてはそうなるでしょうね。そして叶わぬ恋だとわかれば、あとは狼になるだけよ。考えるだけで悍ましいわ」
ぼ、ボス……。ひどいよ……。ひどい!
だが、いい。いいんだ。これで……。
しかし音霧さんは──。
「うんっ! それならだいじょーぶ! えへへ!」
「……大丈夫ですって? あず、あなた……なにが大丈夫だっていうの?」
珍しくボスが慌てた様子を見せた。
なんてことだ。ついにボスの常套句が通用しなくなってしまったのか。
これは告白されても振るから大丈夫ってことだよな……。そんでもって変わらず掃除もしてもらえると思っているのだろうな。いやはや、ひどい話だ。
お掃除大好き人間として接して来たツケが、最悪の形でまわってきてしまった……。
「ふふんっ。それは秘密ぅ〜☆ ねっ! お掃除大好きお兄ちゃんっ!」
なんだろう。呼ばれ方にめちゃくちゃ違和感があるんだけど……。「ねっ」とか言って可愛らしく振られると「イエス!」と反射的に答えてしまいそうになるけど……。
だめだ。
俺は君の部屋の掃除なんて絶対にしない!
「そ、そぅだね……!」
くっ……。全肯定のイエスマン……。
このままではいずれ、冗談抜きでハレンチ部屋の掃除をする日が訪れてしまう。無料奉仕の音霧さん専用家政婦が誕生してしまう……。
ボス……。助けてよ……。
ヘルプの意味を込めて、ボスに困った顔を向けると、
「お兄ちゃんですって……?」
驚きに満ちた顔で俺を見ていた。
「うわっ。出たよブラコン。あずって本当にお兄ちゃん大好きだよね~。もういい年なんだからやめなよ~。…………って今、誰のことをお兄ちゃんって呼んだの? ……お掃除大好き、お兄ちゃん?!」
軽井沢さんまでもが首を傾げながら、俺を見てきた。
あ、あれぇ……。なにこれ……。
するとすぐさまボスが、
「ケイ。あなたアイス食べたいって言っていたわよね? カラオケが控えているのだから、早くあずと買ってらっしゃい」
「は?」
ゆる巻ライオンは不思議そうな顔を見せるも、すぐに「あぁね」と悟るようにこぼし、音霧さんとアイスクリーム屋さんの中へと入っていった。
そして──。
何故かアイスクリーム屋さんの前で俺とボスは二人きりになった。なにやら不穏な空気を感じずにはいられず、すぐさま立ち去ろうとするも──。
ギロリと突き刺さるような視線を向けられた。
……ひぃ。
ぼ、ボス……?
すると正面まで近づいてきて──。
「わかってはいると思うけれど、あずに手を出したら殺すからね?」
え…………。
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