出会いの話 [3]
桜と会ったのは、中学の入学式だった。私は受験をしたので、家から一時間もかかるある程度の学校に入学。同じ塾に人はいたが、勿論行った学校に知り合い何て一人もおらず、誰とも話さず、友達作り頑張ろうと思って終わるところだった。
クラスで担任の挨拶が終わって、個人用のロッカーへ案内された。自分のところが開くかを確認しなさいと言われ、自分の番号のロッカーに手を掛けた。鍵は0000で開いていた。問題はその後だった。鍵は開いているのに、扉が一行に開かなかった。まるでまだ鍵が掛かってるみたいに。
鍵が閉まっている訳ではないから先生は呼べず、周りはだんだんと教室に戻ってしまう。初日から悪目立ちはどうしても嫌だったから酷く焦っていた。口から零れる困惑の声にも自分では気づいていなかった。
今となればそのロッカーには感謝、はしないけど悪くはなかったと思う。
番号の近かった白井さんが「大丈夫?」と声を掛けてくれた。
少し笑って、おもしろいとでも言うように少し上ずった声で、私に声を掛けてくれた。
「いや、鍵掛かってない筈なんだけど開かなくて…、うわっ」
突然の会話に驚いてしまって、後ろも振り返らないまま力任せに引っ張ると、それを待っていたと言わんばかりにガン、と音を出して開いた。そこで私はやっと振り返る。
自分よりも小さくて、かわいい人だなって思った。
「かたいだけだった」
桜は笑ってくれた。緊張していて、どうでもいい質問しか出来なかったけど、これからの学校生活が楽しくなることはわかっていたから、笑みがとまらなかった。
駅まで一緒の道だったから、お互い、母親をおいてって話をして、じゃあねって手を振る。それがどんなに贅沢か、幸せな事だったか。
「誰?」
「仲良くなった子。桜ちゃん」
「ふーん、よかったね」
電車に揺られながら、ただ彼女の事を考える。明日は何を話そう。何が好きなんだろう。頭の中を桜でいっぱいにして、幼い自分は考えていた。
その感情がどんな物だったか、もう今は鮮明に思い出せはしないけれど、その感情が幸せだった事は覚えている。
あの日を忘れた事なんて、一度もありやしない。
今もずっと、これからも。
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