妾の子と蔑まれていた公爵令嬢は、聖女の才能を持つ存在でした。今更態度を改められても、許すことはできません。

木山楽斗

第1話 妾の子

 私の名前は、ナルネア・クーテイン。エルビネア王国に暮らす公爵令嬢である。

 といっても、私は公爵令嬢と言っていい存在なのかどうかわからない。

 なぜなら、私はクーテイン家の現当主の妾の子だからである。クーケイン家の正当な血筋ではない中途半端な存在。それが、私なのである。


「あら? 薄汚い妾の子が、こんな所で何をしているのかしら?」

「本当、汚らわしい存在が、あの部屋から出てこないで欲しいものね」


 妾の子である私に対して、公爵家の面々はいい印象を持っていなかった。

 キルマリ様、クーテリナ様、私の姉達は、私を見かける度に罵倒してくるのである。

 その罵倒は、辛いものだし、苦しいものだ。ただ、私は何も言い返さないことにしている。そのようなことをしても、無駄だとわかっているからだ。


「キルマリ、クーテリナ。あんな愚物に話しかけるのではありません」

「あら、お母様」

「汚らわしい血が移ってしまいます。あの愚かなる血を持つ者に、関わる必要などないないのですよ」


 義母であるカルニラ様は、特に私のことを嫌っていた。

 自分の夫の浮気相手の娘である私を、何よりも不快に思っているようだ。

 ただ、姉達に比べれば、カルニラ様はまだましかもしれない。直接罵倒することを楽しむ姉達より、関わり合いになるたくないという態度のカルニラ様の方が、私として楽だからだ。


「さて、行きますよ。あの汚らわしい愚物を目に入れておきたくはありません」

「はい、お母様」


 好きなだけ私を罵倒した後、カルニラ様達は去って行った。

 彼女達と会ったのは、私にとっては不運だった。三人と丁度会うなど、タイミングが悪いにも程がある。

 本来なら、私は他人とほとんど会うことはない。屋敷の屋根裏の部屋に、閉じ込められているからだ。

 食事は使用人が運んでくるし、入浴は部屋の近くに小さなお風呂場がある。私の世界は、いつもその周辺だけで完結しているのだ。

 しかし、今日は少しだけ外に出なければならなかった。公爵家の長男であるカルード様が、私のことを呼び出しているからだ。


「はあ……」


 カルード様も、私にはいい印象を抱いていない。

 会う度に、罵倒されるのはわかっている。そんな人物の元に行くだけでも不幸なのに、廊下で嫌な人物三人に会うなど、不運すぎるのではないだろうか。

 思えば、私の人生というものは不幸の連続だった。妾の子として生まれて、屋根裏に閉じ込められて、他者に罵倒されて。この灰色の人生に転機が訪れることはあるのだろうか。

 そんなことを考えながら、私は義兄の部屋を目指すのだった。

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