第六百九十五話 マリー・エドワーズは情報屋の『ルーム』で自分が布のスリッパを履いていることに気づいて『疾風のブーツ』に履き替え、クレムからの返信を読み上げる



情報屋はマリーに視線を向けて口を開く。


「それで、マリーさんが売りたい情報とはなんでしょうか?」


「はいっ。えっと『最愛の指輪』が錬金できるという情報ですっ」


マリーの言葉を聞いた情報屋は眉をひそめ、少し考えて口を開いた。


「それはプレイヤー各位に配られた『最愛の指輪』が『錬金』スキルの材料になるということですか?」


「はいっ」


マリーは肯き、転送の間でサポートAIから聞いた話を思い出しながら口を開く。


「私、転送の間で『最愛の指輪』と『ウッキーモンキークイーンの涙』を錬金できるかサポートAIさんに聞いたんです。ユリエル様に贈る『最愛の指輪』をオンリーワンなデザインにできたらいいなあって思って。そうしたら、錬金は可能だけど、成功させるには一定値以上の錬金スキルレベルが必要だって言われました」


「そうですか。マリーさんの『錬金』スキルのレベルは1でしたよね? それでは『最愛の指輪』が錬金可能だという実証実験は難しいですね」


情報屋はマリーを『鑑定』した情報を思い出しながら言う。

マリーは情報屋を見つめて首を傾げ、口を開いた。


「情報屋さんは『錬金』スキルを上げていないんですか? あっ。お金払わないとダメなら教えてもらわなくていいです……っ」


「わうー……」


テイムモンスターの真珠は主のマリーを可哀想なものを見る目で見つめた。

マリーは今、全然お金に困っていないのにお金を節約しようとしてしまうのだと真珠は知っている。

マリーの言葉を聞いた情報屋は苦笑して口を開いた。


「これは雑談の範疇なので、お金は頂きません。私は錬金スキルはまだ取得していません。私とマリーさんの共通のフレンドで錬金スキルレベルが高いのは……」


「クレム!!」


「わうう!!」


マリーと真珠の声が重なる。

マリーと真珠の友達のクレム・クレムソンは『アルカディアオンライン』で錬金術師ギルドに所属し『錬金』に熱中している少年だ。

クレムはマリーと真珠に錬金アイテムの万年筆をプレゼントしてくれた。

マリーはクレムにいろいろと迷惑をかけたので、彼にフローラ・カフェのスイーツを奢る約束をしているが、まだ果たしていない。


「情報屋さんっ。私、クレムにスイーツを奢る約束もしてるので、メッセージを送ってみますね」


「お願いします」


情報屋はマリーにそう言って微笑んだ。

クレムに会えるかもしれないと思った真珠は、尻尾を振ってマリーを見つめる。

マリーはステータス画面を出現させてフレンドのクレムにメッセージを書き始めた。





クレム。今、私、真珠と一緒に情報屋さんの『ルーム』にいるの。

錬金スキルの関係で情報屋さんがクレムにお願いしたいことあるんだって。

私も情報屋さんに情報を買い取ってもらったら、フローラ・カフェでクレムにスイーツを奢るね。

ログインしてたら返事をください。





マリーはクレムへのメッセージを書き終えて送信した。


「クレムへのメッセージの送信、終わりました。クローズ」


マリーがステータス画面を消した後、情報屋はマリーの足元に視線を向けて口を開いた。


「ところで、マリーさんは今日は布のスリッパを履いているのですね」


「えっ? あっ」


情報屋の言葉にマリーは自分の足元を見て、布のスリッパを履いて死に戻ってしまったことに気づいた。

マリーは照れ笑いをしながら情報屋に視線を向けて口を開く。


「焦ってスリッパを履いてきちゃいました。急いで情報屋さんの『ルーム』に行かなくちゃと思って……。寝巻も畳まずにベッドの上に放り投げてきちゃって」


慌てて着替えをしていたマリーを見ていた真珠は知っている。

マリーはクローゼットの扉も開けっ放しにしていた……。


「今、履き替えますね。ステータス」


マリーはアイテムボックスに収納していた『疾風のブーツ』を取り出して履き、布のスリッパをアイテムボックスに収納した。

その直後、可愛らしいハープの音が鳴った。

フレンドからのメッセージが来たようだ。


「クレムから返信来たかもっ。確認しますね」


マリーがメッセージを確認する。

メッセージの送り主はクレムだった。





今、情報屋の『ルーム』に行くから待ってて。





マリーは情報屋と真珠にもわかるようにクレムからのメッセージを読み上げ、そしてステータス画面を消した。


***


風月25日 夕方(4時21分)=5月24日 20:21



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