第六百八十二話 マリー・エドワーズはアーシャとジャックに木箱に入った最後の一房のラブリーチェリーを一個ずつ渡し、真珠は自分がラブリーチェリーを食べられなくて大泣きする



「情報を買い取っている聖人と会わせてほしい」


ジャックがそう言うと、ジャックに恋をし始めたアーシャが即座に反応して口を開く。


「ウチ、連絡取れます!! 今、連絡しますねっ!!」


ジャックの役に立ちたいアーシャはステータス画面を出現させて、情報屋にメッセージを書き始めた。

マリーは、自分が欲を出して『情報を売ってもいいか?』と聞いてしまったことを後悔しながら、口を開く。


「あのー。私と真珠、もう部屋を出てもいいですか……?」


「くぅん?」


真珠は情報屋に情報を売るのが大好きなマリーが帰りたがっているのを不思議に思って首を傾げる。

ステータス画面を消したアーシャがマリーに顔を向けて口を開いた。


「マリーちゃん。ウチ、情報屋さんに『マリーちゃんがぜひ売りたい情報があるっていうから、ウチと真珠くんと錬金術師ギルドのギルドマスターを連れて行ってもいいですか? 待っているのでなるべく早く返信してください。お願いします』ってメッセージ送っちゃったよ」


「あー。そっかぁ。じゃあ、行きます……」


「わうー? くぅん?」


真珠は、元気が無いマリーを心配そうに見上げる。

真珠は、マリーがテイムしたテイムモンスター『白狼』でマリーのことが大好きだから、マリーの元気が無いと心配なのだ。


「私、全然お金に困ってないのに、すぐに『この情報売れる!!』とか思うの、ちょっと控えた方がいいかなあって反省してたの」


「きゅうん……」


真珠の頭を撫でながら言うマリーに、真珠はきっとそれは、マリーには無理だと思って項垂れた。

マリーは無料とお金が大好きだということを、真珠は知っている……。


「あっ。フレンドからの返信、来たっ。ステータス」


アーシャはステータス画面を出現させてフレンドからのメッセージを確認している。


「聖人が何もない空間を凝視しているのは、何度見ても違和感があるな」


小さな声で言うジャックの言葉に、マリーは苦笑し、真珠は何度も肯いた。

フレンドからのメッセージを確認し終えたアーシャがステータス画面を消してジャックに視線を向け、口を開く。


「情報屋さんからの返信でした。先約の顧客対応があるので、一時間後なら対応可能だそうです。ジャック様、どうしますか?」


アーシャはジャックを見つめて問いかける。

マリーと真珠の意向はスルーするようだ。

恋する乙女、アーシャはジャックしか目に入らないのかもしれない。

ジャックは金色の装飾がされている机に行き、手帳を確認してから目を上げてアーシャに視線を向けた。


「わかった。一時間後に会いたいと連絡をしてくれ」


「了解ですー!! ステータス」


アーシャはステータス画面を出現させて、情報屋にメッセージを書き始めた。

マリーはジャックに視線を向けて口を開く。


「じゃあ、一時間後まで自由行動ですか? だったら私『錬金』したいですっ」


「マリーちゃん。ウチが作業室の使い方教えてあげるよ。そうしたら初心者講習受けずに直で錬金できるよ」


情報屋に返信を書き終えて、送信した後にアーシャが言う。

アーシャの言葉が嬉しくて、ぱっと笑顔になった後にマリーは顔を曇らせ、アーシャを見つめて口を開いた。


「アーシャさんが教えてくれるの? 嬉しいけど、ジャックさんと一緒にいなくていいの?」


「ウチ、女の友情を大切にするタイプだから。マリーちゃんと真珠くんと先に会ったんだから、マリーちゃんと真珠くんの迷惑にならない限り、今日は一緒にいるよっ」


「アーシャさん、ありがとう……っ」


「わんわんっ」


アーシャに作業室の使い方を教えて貰えることになったマリーは喜び、アーシャと一緒にいられることがわかって真珠も喜ぶ。


「あっ、そうだ。ちょっと待ってね。ステータス」


マリーはステータス画面を出現させて、アイテムボックスからラブリーチェリーが入った木箱を取り出した。

マリーや真珠との友情を大切にしてくれる優しいアーシャの恋を応援したい。

今度こそ、アーシャには恋の勝者になって幸せになってもらいたい。

今、ジャックの両手には指輪が嵌まっていないので、アーシャが彼に『最愛の指輪』を受け取ってもらえる可能性はあるとマリーは思う。


真珠は木箱を見て、大好きなラブリーチェリーを食べられると思って、青い目を輝かせる。


ラブリーチェリーというのはワールドクエスト『ウッキーモンキークイーンへの求婚騒動』が終了した後に、マリーがグリック村で購入したさくらんぼで、甘酸っぱくてとてもおいしい。

一房に二つのハート型の実がつき、片方の実には種が入っている。


『一房を分け合って食べた二人の友好度が互いに5上昇する』という効果があるので、マリーは最後のラブリーチェリーの一房の軸を裂き、アーシャとジャックにそれぞれ渡した。


「わうー!! わんわぅ、わ!?」


真珠が、マリーに自分の分のラブリーチェリーを要求する。

ジャックはマリーから受け取ったラブリーチェリーと真珠を見比べて口を開いた。


「ん? 真珠はこれが欲しいのか? だったら俺の分を」


「ダメです!! ジャックさんが食べてください!! アーシャさんも早く、口に入れて!! これ、最後のラブリーチェリーなんだから!!」


マリーの迫力に押し切られる形でジャックとアーシャはラブリーチェリーの実を口に入れた。


「ぎゃわんっ!! わんわぅ、わううーわうー!! ぎゃわあああああああああああああああああああああん……っ!!」


ラブリーチェリーを食べられなかった真珠は大泣きし始めた。


***


風月21日 昼(3時33分)=5月23日 19:33



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