第五百七十七話 マリー・エドワーズと真珠は『孤王の領域』で頭蓋骨を見つけて動転し、クレムに宥められた後に『識別の虫眼鏡』で頭蓋骨を見る



夕暮れの空はゆっくりと暗くなり、暗い緑色の月が星と共に夜空を彩る。

マリーは『ライト』で光の玉を出現させて辺りを照らした。


しゃがみ込み、手近なゴミをいくつか拾ってアイテムボックスに収納したマリーは立ち上がり、腰を伸ばして口を開く。


「ゴミ、そんなに拾えてないけどもう暗くなっちゃったし、前に拾ったゴミと合わせて、それをクレムに渡せばいいかな? 真珠はどう思う?」


「くぅん?」


真珠はさっきから、気になる匂いが漂ってきていてそわそわしている。


「わうー。わんわんっ」


真珠はマリーに呼びかけ、地面に鼻を寄せて気になる匂いを辿っていく。


「真珠? なにか気になるの?」


マリーは『ライト』の光を出現させたまま、真珠の後を追っていく。

そして真珠と、真珠の後に続いたマリーは野ざらしの頭蓋骨に辿りついた。

真珠とマリーは『ライト』の光に照らされた頭蓋骨を見て悲鳴を上げる。


「マリー!! 真珠……っ!!」


真珠とマリーの悲鳴を聞きつけたクレムが駆け寄ってきた。

クレムも『ライト』の光で辺りを照らしている。

マリーは頭蓋骨を指さして口を開いた。


「ク、ク、ク、ク、クレム……!! ず、ず、ず、ず、頭蓋骨……っ!!」


「ぎゃわあああああああああああああああああああああああんっ!!」


マリーはデメリットスキル『大泣き』を発動させないために必死に泣きたいのを我慢し、真珠は駆けつけてくれたクレムの顔を見て安心して泣き出した。

クレムは真珠を抱き上げてあやし、マリーに視線を向けて口を開いた。


「マリー。落ち着け。これはゲームだ。現実じゃない。RPGで骨とかよく見るだろ?」


「あ、そっか……。そうだよね……。ゲーム。うん、これはゲーム」


クレムの言葉を聞いて少し落ち着いたマリーは息を吐く。

真珠はクレムに背中を撫でて貰って少し落ち着き、しゃっくりをあげている。


「でも、頭蓋骨なんてオレ『アルカディアオンライン』で初めて見たかも。錬金素材になるかな?」


クレムはそう言って頭蓋骨に手を伸ばしかけたが、頭蓋骨に怯えて震える真珠を抱っこ中なので自重して手を引っ込めた。

マリーはこの頭蓋骨を『識別の虫眼鏡』で見てみようと思いつく。


ステータス画面を出現させてアイテムボックスから『識別の虫眼鏡』を取り出して手にしたマリーを見たクレムは、クレムの肩口に顔を押し付けて震えている真珠の背中を撫でながら口を開いた。


「真珠。虫眼鏡だぞ。マリーが虫眼鏡を見てる」


「きゅうん……?」


真珠は『識別の虫眼鏡』で物を見るのが大好きなので、クレムの言葉に反応して顔を上げた。

そして真珠が首を巡らせると、頭蓋骨に『識別の虫眼鏡』を向けているマリーの姿が目に入り、全力で首を横に振る。

真珠は『識別の虫眼鏡』を見るのは好きだけれど、怖いものは見たくない……!!


マリーがのぞき込んだ『識別の虫眼鏡』には『ウッキーモンキークイーンの頭蓋骨/ウッキーモンキーの頭蓋骨』と表示されている。

マリーは自分が見た情報をクレムと真珠に伝えるべく、彼らに視線を向けて口を開いた。


「クレム。真珠。この頭蓋骨はウッキーモンキークイーンとウッキーモンキーの物だって」


「ウッキーモンキークイーン?」


マリーの言葉を聞いたクレムが首を傾げる。

ウッキーモンキークイーン。その名前には見覚えがある。


マリーはワールドクエスト一覧からワールドクエスト『ウッキーモンキークイーンへの求婚騒動』のクエスト内容を表示させて読み、小さく肯いてクレムに視線を向けて口を開いた。


「ワールドクエスト『ウッキーモンキークイーンへの求婚騒動』のレイドボスの頭蓋骨だと思う。私、あの時、クエスト達成条件④の『グリック村のすべての『ラブリーチェリー』を食べ尽くす・破棄する・アイテムボックス内に収納する』を目指して頑張ったんだけど、プレイヤーがウッキーモンキークイーンを討伐しちゃって、それでクエスト達成になったんだよ」


マリーはそう言って、月明かりとライトの光に照らされた白い頭蓋骨二つを見つめる。

この頭蓋骨のウッキーモンキーからのラブリーチェリーを、ウッキーモンキークイーンは待っていたのだろうか……。


マリーは『識別の虫眼鏡』をアイテムボックスに収納して『ラブリーチェリー』が入った木箱を取り出す。

そしてマリーは『ラブリーチェリー』を一房取り出し、クレムに差し出した。


「クレムと真珠で半分こして食べて」


クレムはマリーから『ラブリーチェリー』を受け取った笑顔になる。


「サンキュ、マリー。真珠。マリーが『ラブリーチェリー』をくれたぞ。半分こして食べよう」


「わおんっ」


甘酸っぱくておいしい『ラブリーチェリー』が大好きな真珠は、クレムの言葉を聞いて元気を取り戻した。

マリーは木箱からもう一房『ラブリーチェリー』を取り出して、木箱をアイテムボックスに収納する。


「『ラブリーチェリー』をお供えするね。安らかに眠ってね」


マリーはそう言いながら、白い頭蓋骨二つの前に『ラブリーチェリー』を一房供えて両手を胸の前で組んで目を閉じ、ウッキーモンキークイーンとウッキーモンキーの冥福を祈った。


***


マリー・エドワーズのスキル経験値が上昇


ライト レベル2(185/200)→ ライト レベル3(1/300)


祈り レベル0(40/100)→ 祈り レベル0(50/100)


風月13日 夜(5時15分)=5月21日 21:15

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