第二百六十七話 高橋悠里はすずに『ユリエル様ってマリーの好きな人だよね』と暴露されて叫び、要に『ウェインって、誰なの?』と質問される
「えっと、要先輩のゲームの主人公の名前をすずさんに伝えてもいいですか?」
悠里の言葉に要はため息を吐き、肯いた。
「この人、話が通じなさそうな感じだからこっちの情報をある程度開示するのは仕方ないことかもしれない。個人的には『アルカディアオンライン』の運営に通報したい案件だけど」
「要先輩っ。すずさんはいい人なんです。なるべく穏便にお願いします……っ」
悠里は要にそう言った後、すずに視線を向けて口を開いた。
「あのね。すずさん。要先輩はウェインじゃなくてユリエル様です」
悠里の言葉を聞いたすずは眉をひそめる。
「ユリエル様? ああ、パーティーで聞いた気がする。ユリエル様ってマリーの好きな人だよね」
「わああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
要先輩の目の前で!! なんてこと言うの……っ!! プライバシーの侵害が過ぎる!!
悠里が思わず大声を出したせいで店内の注目を集めてしまう。
悠里は席を立ち、店内の客たちに頭を下げてうるさくしたことを謝罪した。
すずの言葉をしっかり聞いていた要は機嫌を直してすずに微笑する。
「まずは自己紹介をした方がいいですよね。俺は藤ヶ谷要といいます。星ヶ浦中学の二年生です」
「あたしは一ノ瀬すず。桜台女子学院の二年で部活はバスケ部だよ」
理由はわからないけれど、要の雰囲気が和らいで悠里はほっとした。
さっきのすずの発言は、要の耳に届いていないと信じたい……。
自販機に飲み物を買いに行っていた真子が『フローラ・バナナマフィン』と『フローラ・カフェラテ』をトレイに乗せて戻ってきた。
「さっき、叫び声が聞こえたんだけど何かあった?」
「悠里が突然、叫んだんだよ。なんで叫んだの?」
真子の問いかけにすずが答えながら、悠里に視線を向ける。
「もう蒸し返さないでください……」
下を向いて言う悠里を見つめて、真子はすずがなにかやらかしたのだと察した。
だが、悠里が『蒸し返さないでください』と言う以上、スルーするのが正解だろう。
「あっ。要先輩は真子さんの自己紹介、聞いてなかったですよね。えっと、こちらは芝浦真子さん。桜台女子学院の二年生だそうです」
悠里が真子を紹介すると、要は真子に視線を向けて微笑む。
「俺は藤ヶ谷要といいます。星ヶ浦中学の二年生です。よろしくお願いします」
「藤ヶ谷くんね。覚えたよ。よろしくね」
真子はそう言いながら持ってきた『フローラ・バナナマフィン』と『フローラ・カフェラテ』を乗せたトレイを自分の席に置き、椅子に座った。
これで全員が揃った。
幼なじみの圭の個人情報を隠しながら、どうやってすずに事情を説明したらいいのだろうか。
悠里は考えながら、要に買ってもらった『フローラ・カフェラテ』をひとくち飲んだ。……甘さが身体に沁みる。
「悠里ちゃん。ひとつ聞いてもいいかな?」
悠里が『フローラ・カフェラテ』を飲み終えたタイミングで要は言った。
悠里は手に持っていた『フローラ・カフェラテ』をテーブルに置き、要に視線を向けて肯く。
要は悠里を見つめて口を開いた。
「ウェインって誰なの? 悠里ちゃんは知ってるんだよね?」
要に質問されて、悠里は一瞬フリーズした。そしてなんとか再起動する。
ですよね!! それ、疑問ですよね!!
要はずっと、すずから『ウェイン』と言われ続けている。
でも、マリーが知る限り、ゲーム内でユリエルとウェインが顔を合わせたことはない。
だからウェインのグラフィックと要の容姿がものすごく似ているせいで間違われたと知るはずもない。
これ、どう説明したらいいの……っ!?
悠里はウェインの中の人である圭の個人情報を守りながら、事情を説明する術を必死で考えた。
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