第二百五十四話 マリー・エドワーズと真珠、ノーマは馬車に乗り『銀のうさぎ亭』に帰る



マリーと真珠、ノーマはナナに先導されて領主館前に到着した。

領主館から外に出ると空に輝く太陽がまぶしくて、マリーは目を細める。

リアルに戻ったらおそらく深夜なのだろうけれど、ゲームは今、朝なのだ。

ナナとノーマ、真珠と共にしばらく待っていると侍女長が現れた。


「もうすぐ馬車がこちらに到着します」


侍女長がそう言った直後、領主が使うには簡素な装飾の馬車が現れた。

マリーと真珠が以前乗せてもらった馬車だ。

御者が御者席から下り、マリーたちのために馬車の扉を開ける。


「ノーマさん。先に馬車に乗って」


マリーは戸惑うノーマを促した。

ノーマはマリーに肯き、御者の手を借りて馬車に乗り込む。

マリーは真珠を抱っこして馬車に乗せた。

真珠は自分で馬車内の座席に飛び乗る。


「お嬢様。お手をどうぞ」


御者に手を差し伸べられたマリーは、ワンピースドレスの裾をつまんで一礼した後、彼の手を借りて馬車に乗る。

マリーたちが全員、馬車に乗ったことを確認した御者は馬車の扉を閉めた。

そして御者は御者席に座り、馬に軽く鞭を入れた。馬車が動き出す。


真珠は馬車の窓から外を見て、歓声をあげた。

マリーはノーマに窓の外の景色を見ようと言って、窓の外に視線を向ける。

初めて革張りの椅子がある馬車に乗ったノーマは緊張しながら窓の外を見つめた。


マリーと真珠、ノーマを乗せた馬車は領主館を出発して進み、港町アヴィラの中央通りを緩やかな速度で走る。

窓の外ではプレイヤーとNPCが馬車を眺めていた。

以前、マリーと真珠が馬車に乗っていた時に遭遇したプレイヤーは馬車を指差し、隣に立つ自分のフレンドに楽しそうに話をしている。

左腕に腕輪をつけたプレイヤーが馬車に手を振ってくれたが、マリーはリアルの時間は今何時だろうということが気になって上の空だった。


マリーは手を振り返さなかったが、プレイヤーたちは濃い青色のワンピースドレスを着て、髪に白いリボンを編み込んだマリーとレモンイエローのドレスを着たノーマ、そして白い子犬の真珠が乗った馬車を見て盛り上がる。


道の端に整列をしてパレードを見物するように馬車に視線を向け、手を振っているプレイヤーたちの行動にノーマは戸惑いながらも、小さく手を振り返した。

ノーマが手を振ると、プレイヤーたちはわあっと歓声をあげた。ノーマは歓声を聞いて嬉しくなる。

真珠は窓の外を見ながら、勢いよく尻尾を振った。


馬車は『銀のうさぎ亭』の前で停車し、御者は御者席から下りて馬車の扉を開けた。

マリーは御者に真珠を抱っこして、地面に下ろしてもらう。

それからマリー自身が御者の手を借りて馬車を下り、マリーに続いてノーマが御者の手を借りて馬車を下りた。


馬車を下りたマリーと真珠、ノーマはみんなで御者にお礼を言って、馬車を見送る。

そしてマリーと真珠は胸を張り、ノーマに『銀のうさぎ亭』を紹介して、ノーマのために宿屋の扉を開けた。



***


若葉月26日 朝(2時51分)=5月10日 0:51



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