第二百四十九話 マリー・エドワーズはパーティー終了後、お菓子のお土産を貰うための列に並び、ユリエルにメッセージを送る



大広間にいる給仕たちからパーティーが終了すると知らされた招待客たちは、扉の前でお土産のお菓子の詰め合わせを受け取り、大広間を出て行く。


マリーはノーマとお土産を受け取るための列に並んでいる最中に、ノーマを案内して『銀のうさぎ亭』に戻るのであれば『死に戻り』が使えないことに気がついた。


「真珠と合流できない……っ」


焦ったマリーはユリエルにメッセージを送って事情を説明することにした。

自分の隣にはNPCのノーマがいるが、多少不審に思われても仕方がない。


「ステータス」


マリーはステータス画面を出現させてユリエルにメッセージを書き始めた。


ノーマは虚空を真剣に見つめて指を動かしているマリーの奇妙な行動を不思議に思ったが、フレデリック・レーンに会うための列に並んでいた女性たちの多くが今のマリーと似た行動をしていたことを思い出し、静観することにした。


フレデリック・レーンと彼の婚約者の会話が聞こえなかった時も、ノーマの後ろに並んでいた女性がなぜか会話の内容を知っていてノーマにも教えてくれた。

その後に列に並んでいた全員で少しずつ距離を詰め、フレデリック・レーンと彼の婚約者の会話を直接聞けるようになったのは面白かった。

美しい容姿の大人ふたりに、可愛らしい少女であるマリーが混ざっている様子が微笑ましくてノーマは思わず笑ってしまった。


「送信完了っ。あ、イヴさんとアーシャさん、クレムにも『大広間を出て家に帰る』ってメッセージを送った方がいいよね」


マリーは小さな声でぶつぶつと呟きながら、虚空を見つめて指を動かす。

……マリーは不思議な子だとノーマは思う。

不思議で優しくて、可愛いマリー。

あの時、マリーに声を掛けて貰えなかったら、ノーマはお手洗いに行くために列を離れ、そして大広間に戻った時には列の最後尾に並び直さなければいけなかっただろう。

それでもフレデリック・レーンと会い、話し、握手をしてもらえたかもしれないけれど、でも、今のように楽しく嬉しい気持ちでパーティーを終えられたかわからない。


マリーが招待客の列にお菓子を配ってくれて、それがきっかけで給仕が飲み物を配ってくれた時は喉が渇いていたから嬉しかった。

だから思わず一気に飲み物を飲んでしまって、お手洗いに行きたくなった時は飲み物を受け取ったことを後悔した。


でもマリーが声を掛けてくれて、ノーマの代わりに列に並んでくれたから、飲み物を配ってくれた給仕のことも、うっかり飲み物を一気に飲んでしまった自分のことも、嫌な記憶としてではなく笑える失敗として楽しく家族に話せるような気がする。


「イヴさんとアーシャさん、クレムにメッセージ送信完了っ。あっ。ユリエル様から返信が来たっ」


お土産を貰う列が緩やかに前に進み出した。


「マリーちゃん。列が前に進んだよ」


「あっ。本当だ。ノーマさん。教えてくれてありがとう」


マリーとノーマはゆっくりと前に進み、そしてまた列が止まる。

マリーは列が止まるとユリエルからのメッセージを確認した。





マリーちゃん。メッセージを読んだよ。

新しい友達ができてよかったね。今から真珠くんと一緒に領主館に帰るから、真珠くんとは領主館で合流するといいよ。

俺もマリーちゃんと会えるので嬉しいです。


帰りは領主館から馬車を出すから、マリーちゃんと真珠くん、友達と一緒に乗って帰ってね。





「わあ。よかったぁ。領主館で真珠と合流できるし、ユリエル様にも会えるっ」


ノーマは喜ぶマリーを微笑ましく見つめた。


***


若葉月26日 早朝(1時54分)=5月9日 23:54



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