第二百四十七話 マリー・エドワーズたちはクレムが大食いをしてNPC招待客に囲まれていることを知る
イヴに先導され、ノーマと手をつないでマリーは人込みの中を進む。
なんとか人込みの最前列に出たマリーは、そこでクレムが山盛りのお菓子を食べまくり、空になった皿が積みあがっているのを目撃した。
クレムの皿が空になるたびに給仕が新たな料理やお菓子を盛った皿を置いていく。
これは……大食い!! またの名をフードファイト……!!
まるで大食いのテレビ番組のような光景がマリーの目の前に広がっていた。
プレイヤーは食事を取っても取らなくてもよく、いくら食べても満腹にならない。空腹に苦しむこともない。
だからこそ、食べたいだけ食べられる。食べすぎて気持ち悪くなることもなければ健康に悪影響を及ぼすこともない。
爆食したいプレイヤーの天国。それが『アルカディアオンライン』だ。
マリーはプレイヤーが欲望のままにNPCの食べ物を食べ尽くすのは気が進まないので自分が大量に食べ続けようとは思わないが、クレムが次々にお菓子を口に入れて山のように積み上がっているお菓子が瞬く間に消えていく様を見るのは面白いと思う。
クレムの爆食を見物している人だかりのほとんどが左腕に腕輪をしていないNPCだが、左腕に腕輪をしているプレイヤーの姿もあった。
イヴはクレムがいつまでも食べ続けるだろうと見て取って、口を開く。
「クレムが食べ終わるのを待ってたら、あたしたちが食べる時間がなくなっちゃうから食べよう」
「ここで!?」
イヴの言葉にマリーは目を剥いた。
こんなに大勢に見られながらお菓子を食べてもおいしいと思える気がしない。
「クレムだって食べてるじゃない」
イヴはそう言って、料理とお菓子を盛った皿の前に向かう。
「マリーちゃん。私はちょっと……遠慮したいなあ」
ためらいがちに言うノーマに、マリーは深く肯いて口を開いた。
「そうですよね。ノーマさん。私、イヴさんに声を掛けてきますね」
マリーはクレムの隣に立ち、お菓子や料理を食べ始めたイヴにノーマとお菓子を取ってくることを告げた。
そして人だかりの最前列で待つノーマの元に戻る。
見物人たちはスレンダーな体形の美少女、イヴが山のような料理を食べ始めたことで新たな盛り上がりを見せていた。
クレム。パーティー会場の料理やお菓子、ひとりで食べ尽くさないでね……。
イヴさん。見られながら平然と食べ続けるそのタフネス、すごいです……。
マリーは心の中でそっと呟き、ノーマと手をつないで人込みを離れた。
***
若葉月26日 早朝(1時04分)=5月9日 23:04
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